スタートアップのためのイベント「Slush」のアジア版「Slush Asia」が、5月に幕張メッセで開催されます。公用語が英語の同イベントにて実施されるピッチコンテストの参加者が、事前トレーニングセッションに集結、プレゼンテーションをブラッシュアップさせるためのアドバイスを受けました。後編では、実際にどのようなコーチングが行われたのかを紹介します。

前半で紹介した8社のピッチが終了した後は、約1時間のコーチングセッションが実施されました。英語をブラッシュアップしたいグループと、プレゼンテーションそのものに関するコーチングを受けたいグループに分かれるようにとの指示があったものの、今回の参加者は全体的に英語のレベルが高く、全チームがプレゼンテーションに関するアドバイスを求める結果となりました。

■コーチから見た各社のピッチに足りないものとは?
ポイント:トライアルサービスはユーザーの反応を示す

実際に、この日コーチングを受けた人はどのようなフィードバックをもらったのでしょうか。まずは、この日Web不動産サービス「カウル」を紹介したHousmartを追いました。同社から参加したのはChief Information Officerの松江宏樹さんとDesign Executive Officerの高松智明さんの2人です。

2人は前職が楽天のエンジニア。楽天が英語を社内公用語にすると発表したばかりの頃に入社した2人は、「楽天に入社する前は特に英語が得意なわけではありませんでした」と話します。楽天入社後は、業務で英語を利用することや数カ月の海外勤務の機会にも恵まれ、徐々に英語に慣れていったといいます。

そんな2人がコーチから受けたアドバイスは、「投資家向けの情報をもっと出した方が良いのではないか」という点。実はピッチの中には、ユーザーが月額料金を支払うという同社のビジネスモデルがはっきり盛り込まれていなかったのです。

「誰に向けたピッチなのかにもよりますが、投資家にとってはどこに収益源があるのかわからなければリターンが見えません。年間の市場規模や取引件数などの数値もあった方がわかりやすいでしょうね」とコーチは話します。

また、スライドは絞りつつも、トライアル時のユーザーの反応を入れるとユーザーに響いていることがわかりやすいといったアドバイスもありました。


ポイント:同じようなサービスが多い場合は差別化とターゲットの明確化を

次は、IoTを活用した高齢者ケアサービスのZ-Works。この日ピッチを行った代表取締役 共同経営者の髙橋達也さんは、大学の学位をアメリカで取得したこともあり英語は堪能。そんな髙橋さんがなぜ今回のトレーニングに参加したのかというと、「ピッチのフォーマットを確認したかったことと、Q&Aセッションの準備をしたかったため」とのこと。

「プレゼンテーションそのものは、練習すれば何とかなります。ただ、Q&Aでは何を質問されるかわかりません。Q&Aを練習する機会はあまりないですからね」と髙橋さんは話します。

コーチからは、「高齢者向けサービスは数多いため、差別化やターゲットを明確にすべき」というアドバイスを得たとのこと。ビジネスモデルについても、ハードウェアとクラウドを組み合わせたサービスの特徴がピッチではうまく伝わっていませんでした。

「本番と同じ緊張感が味わえたのも良かったですし、今回参加したおかげで何を練習すべきかがわかりました」と、髙橋さんは今回のトレーニングの成果を語りました。

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ポイント:限られた時間の中で効率的に情報を伝えるスライド作りを

美容院向けBtoBプラットフォーム「Carries」を紹介したMobbでピッチを担当した同社Marketing & Salesの上田和真さんも、大学をアメリカで卒業。英語は堪能ですが「今日のピッチの出来は30点」と、自分を厳しく評価しています。

今回発表したサービスは、ビジネス向けとコンシューマー向けの両方に向けたサービスですが、コーチからは「まずはビジネス向けにフォーカスした方がわかりやすい」とのアドバイスを受けました。

また、3分という短いピッチの時間で効率的にスライドを完結させるため、ビジュアル面で工夫が必要というアドバイスもありました。「プレゼンの構成を変えてわかりやすくしようと思います」と上田さんは話しています。

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ポイント:開発前の課題と解決を示すべし。個人の困った経験も聞き手に響く

ピッチ全体に対する感想を、当日コーチとして参加したボランティアの方に聞いてみると、「本当の差別化要因をもっと強調した方がいいと感じました。なぜそのサービスがすごいのかよくわからないと、聞いている側に響きません」とのこと。また、プレゼンテーション全体をストーリーに仕立てるとアピールしやすいとの意見もありました。

「例えば去年は、個人的に困った経験を元にしてソリューションを開発したスタートアップがいたのですが、個人の体験はとても印象に残りました。サービス開発前の課題を明確にし、その課題解決のためのサービスであること、すでにユーザーがいる場合はユーザーの声も盛り込んで、最後に今後のサービスの方向性を入れてプレゼンを締めくくると良いのではないでしょうか」(コーチとして参加したボランティア)

■大事なのは英語よりも自信を持って話すこと
全体的に英語のレベルが高かった今回のトレーニング参加者ですが、コーチの皆が声を揃えて言うのは「英語力は問題ではない」ということです。

英語に自信がないことから、英語オンリーのピッチコンテストへの参加をためらっているスタートアップが存在するのも事実ですが、あるコーチは「英語のピッチは練習さえすれば何とかなります。本番で英語の間違いを気にしてしまうと、自信がないように見えてしまいます。その自信のなさの方が、英語ができないことよりも問題です」と話します。

また別のコーチも、「英語の能力そのものよりも、文化的な課題の方が大きいと感じています。他の国の人には、日本人より英語力が低くても、強気に発言している人はたくさんいます。日本人に必要なのは、あの強気さかもしれません」と話しています。

中でも英語力の高かったZ-Worksの髙橋さんに、英語でのピッチに対するアドバイスを聞くと、「英語そのものよりも、勢いとフローが大切ですね。発音や間違いを気にしてフローが途切れないよう、気をつけることが重要だと思います」とのこと。

また、同じく学生時代をアメリカで過ごしたMobbの上田さんも、「英語が話せなくても、それを言い訳にしないでほしいですね。英語はやれば伸びるのですから」と断言します。

Mobbには外国人従業員もいて、社内でも英語を使う機会が多いとのことですが、実は同社 代表取締役の川邊晃さんは「実はあまり英語が得意ではないんです」と明かします。それでも、「相手に伝えたいという気持ち、また相手の話を理解したいという気持ちがあればコミュニケーションできます。英語は単なるツールなので、コミュニケーションしたいという思いが大切だと実感します」としています。

■起業家にリスクは付き物。英語でのプレゼンも恐れるな
Slush AsiaのNiya Kabirさんは、こうしたトレーニングを実施しているのも「英語が問題になることはないという事実を理解してほしいため」と話します。

「誰だってできるんだと自信を持ってほしいのです。英語が苦手だからと参加を躊躇している人にも参加してもらいたい。完璧な英語を話す必要はないのですから。英語は単なるツールであり、世界を変えるためのきっかけでしかありません。スタートアップの人たちは、ビジネスを立ち上げるというリスクをすでに経験した人たち。起業家にリスクは付き物ですし、英語でプレゼンするというリスクもぜひ体験してほしいですね」(Kabirさん)。

2015年にSlush Asiaのピッチコンテストで優勝したVMFiveは、優勝後数カ月で600万ドルの投資を受けています。また、2位、3位となったスタートアップも、順調に資金調達できているとのこと。今年はどんなスタートアップが登場するのか、そして優勝の栄冠を手にするのはどの企業なのか、楽しみです。

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坂井田 大悟

ビジネス コンサルティング本部 シニア・プリンシパル

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