第2回目が開催直前! スタートアップ企業の熱気渦巻く「Slush Asia」、主催者に聞く
2016/05/09
2016/05/09
スタートアップ企業の熱気を最前線で体感できるイベント「Slush Asia」。その第2回目が2016年5月13~14日に幕張メッセで開催されます。アクセンチュアは昨年の第1回目に引き続き、さまざまな形でこのイベントを支援しており、関わる社員は「スタートアップ独特の熱気とムーブメントの高まりを体感してほしい」と社内外に参加を呼び掛けています。
「Slush Asia」は、スタートアップ企業と投資家、大企業が出会う場として知られ、“世界を変える起業家たちの最前線”を体験できるイベントです。
フィンランドで始まった本家「Slush」は、共通言語が英語である点とミュージックフェスのようなスタイリッシュな演出が特徴。スタートアップとベンチャーキャピタル等の投資家が真剣なビジネスを語り合う場として話題を呼び、瞬く間にグローバルなイベントになりました。
“日本を中心としたアジア版”である「Slush Asia」の開催にアクセンチュアは全面的に協力しており、オープンイノベーション推進の起爆剤となることを期待しています。
今回はSlush Asia代表のアンティ・ソンニネン(Antti Sonninen)さんと、アクセンチュア株式会社の坂井田 大悟(デジタル コンサルティング本部 シニア・プリンシパル)、貝沼 篤(同本部マネジャー)に、このイベントにかける想いを聞きました。(聞き手:アクセンチュア株式会社 マーケティング・コミュニケーション部 渡邉 友紀)
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■日本とアジアを世界で最も“起業しやすい場所”に
渡邉 友紀(アクセンチュア) 昨年、お台場で開催されたSlush Asiaは、テントの特設会場や音楽イベントのようなカッコ良さ、そしてスタートアップ企業だけでなく既に成功を収めている企業のトップや海外の投資家が集ったイベントとして注目されました。そもそもSlushを日本で開催することになったきっかけを教えてください。
アンティ・ソンニネン(Slush Asia) Slush Asia開催にあたっての“想い”は1つです。それは「日本とアジアを世界で最も起業しやすい場所にしたい」ということ。才能のあるアジアの人々のビジネス課題の解決に、Slush Asiaでは1つ1つ取り組んでいこうと思っています。
海外の企業や投資家を呼び込みやすくするため、プログラムはすべて英語としました。もちろんこれは、日本人や日本企業の海外進出への意識向上が狙いであり、世界展開へのハードルを下げる効果があります。これがSlush Asiaのユニークなところです。
僕たちはビジネスイベントにありがちな「型」(フォーム、スタイル、パターン)を踏襲せず、イベントの“あり方”に革命を起こそうとしています。スタートアップにはイノベーションが必要です。そのためには僕たち自身が、まずは「型」にハマらないところをお見せしなければいけません。Slush自体が「まだ誰もやっていないことを実現している象徴」であるところを証明したいのです。
Slush Asiaにも出展者のブースはたくさんありますが、いわゆる「展示会」ではありません。トークセッションも多いですが、成功者が壇上から情報をばらまくタイプのイベントとは一線を画しています。日本のイベントでは質疑応答の時間が短いです。僕たちは“質問する人を増やしたい”と考えています。壇上からの一方的な伝達ではなく、インタラクティブなものにして、スピーチをネットワーキングのきっかけにしたいんです。
イベント主催者の多くは「参加者や登壇者にどうやって楽しんでもらうか」を考えることが多いでしょう。しかし僕たちは違います。「参加者がいかに成長できるか、成長のきっかけや場をどれだけ多く作ることができるか」ということにフォーカスしているんです。
渡邉 「参加者の成長」ですか。
アンティ そうです。Slush Asiaは参加者が受動的に聞くだけのイベントではありません。僕たちが積極的に推進しているのは、「起業家やスピーカー成功者と一般参加者が交流すること」です。
DeNAの南場智子さんには、セッション後には会場内を歩き回って見学していただきました。一般的なイベントでは、登壇者は出番が終わると控え室に戻ってしまいます。でもSlush Asiaではそうはしません。
成功した先駆者が持っている経験を他の人に伝えることが大事です。「偉い人を呼ぶ」イベントではなく、成功体験者とディスカッションできるイベントにしたいのです。そうした成功者たちには、自分の出番以外の時間にも会場で色々と見たり、参加者と話したりしていただきたいと考えています。
これがSlushのユニークな点ですね。
■ボランティアで構成された非営利活動として
渡邉 Slush Asiaは非営利活動ですね。
アンティ はい。フィンランドでのSlushも非営利組織ですが、日本の私たちも一般社団法人の体制をとり活動しています。
私たちは「人をつなげたい」という想いでやっています。
Slush Asiaではボランティアが主体です。登壇者もSlushのビジョンやムーブメントに共感してくださいます。「みんなががんばっているっている。だから自分も貢献したい」と思ってくださる人の輪が広がり、世界中から応援に駆けつけてくださいました。
学生ボランティアも世界各国から集います。今回は北欧から40人ほどの学生たちがSlush Asiaでボランティアをするために来日します。
Slush Asiaでボランティアをすると、自分のロールモデルとなりうる起業家やスピーカーと出会えます。それも1つのメリットですね。登壇者は志の高い若い世代に会うことを楽しみにしています。
去年来日した、世界最大級のデザイン企業であるIDEOのGM、トム・ケリーさんは、Slush Asiaでの日本のボランティアの活躍を見て「こんなに熱心なボランティアは見たことがない」と言っていました。
貝沼 篤(アクセンチュア) たしかに、学生がこんなにがんばっているイベントは非常に珍しいでしょうね。Slushはもともと学生主体というコンセプトで立ち上がっていますし、今年のSlush Asiaでも学生に多くの裁量が与えられていますね。
アンティ そうです。去年のSlush Asiaでの学生の関わり方は「当日ボランティア」。つまり当日の会場運営のオペレーションだけでしたが、今年は企画から関わっています。
渡邉 企画に関わっているコア・メンバーは何人くらいの規模なのですか?
アンティ フルタイムに近いメンバーもいますが、フルタイムをコミットできないけれど特定の役割を持って取り組んでいるスタッフを含めると15人ほどがコア・メンバーです。 2016年4月に、イベント当日のボランティアが事前に集まるトレーニングを行いました。約200人が集まりましたが、最終的には400人になる予定です。
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■アクセンチュアは日本企業のイメージを変えた
渡邉 Slush Asiaがアクセンチュアへ期待していることは何でしょうか。
アンティ アクセンチュアと一緒に取り組んでいるのは「ミーティングエリア」の企画と運用です。ミーティングエリアは、スタートアップと投資家のミーティングが行われたり、大企業とスタートアップが出会ったりする場です。
Slush Asiaは情報をばらまくイベントではなく、色々な人が様々な人に“会いまくる場”です。アクセンチュアはそのためのコアな存在です。
この場がうまくいくかどうかが、Slush Asia参加者の満足度に決定的に影響します。なぜなら、チケットを購入してくれている人々の動機の多くは「パートナー・事業会社に会いたい」「投資家に会いたい」「メディアに会いたい」といったものだからです。この出会いをうまく演出できるかどうかに全力を挙げて頑張り、形ある実績にしていきたいと思います。
渡邉 実際に、大企業とスタートアップとのミートアップはどういう形で運営・実施されていますか?
坂井田 大悟(アクセンチュア) Slush Asiaの参加者であるスタートアップや投資家は、事前にイベントの参加者を確認して、当日の打ち合わせを設定できる仕組みがあります。事前にお互いのプロフィールを確認してお見合いを依頼するようなイメージです。時間になったらアクセンチュアのミーティングエリアに集合し協働、投資の余地について摺り合わせを行います。
■スタートアップのムーブメントをお客様へ
渡邉 アクセンチュアがSlush Asiaに参画することになった背景を教えてください。
坂井田 アクセンチュアがSlush Asiaに参画する理由は主に3点です。
この3点においては、アクセンチュア・オープンイノベーション・イニシアチブが目指している方向性とも合致するところです。
アンティさんは、もともとSLUSH ASIAの発起人の1人である孫 泰蔵さん(Mistletoe代表取締役兼CEO)と、アクセンチュアのチーフ・マーケティング・イノベーターである加治 慶光とのつながりがあったんですよね?
アンティ はい、そうです。孫 泰蔵さんと加治さんと知り合いでした。加治さんは当初、個人としての関わりの予定でしたが、それが発展して昨年から会社としての関わりになったのです。
渡邉 去年、アクセンチュアのお客様の反応はいかがでしたか?
坂井田 お付き合いのあるお客様も、お付き合いの無い皆様も、大勢を会場にご案内しました。ミーティングエリアを開設してブリッジメイキング、すなわちイノベーションプレイヤーとの橋渡しを行いました。初開催のSlush Asiaでしたので、日本のお客様には若干の戸惑いはあったようですが、皆様楽しんで1日を過ごされたようでした。
貝沼 エッジの効いた取り組みを実施するとき、アクセンチュアに限らず大企業はどうしても時間がかかるものです。あるいは組織構造の関係で、革新的なことを一気に仕上げることが困難な場合もあります。スピード感のあるベンチャーと組むことは、大企業にとってイノベーションを推進する上でメリットです。
坂井田 ブリッジメイキングを考える時には、それぞれのプレイヤーを理解することが重要です。
スタートアップには様々な特徴があります。たとえばスピード、発想力、行動力、そして多様性など。考え方のベクトルの違いや仕事への打ち込み方の違いなどにも、直接触れることで初めて理解できることがあります。
一方、私たちのお客様には豊富な資金力と人材、オフィススペースなどのファシリティがあります。そう言ったヒト・モノ・カネと言った資本では大企業側が秀でています。
お客様とスタートアップを結びつけ、価値を交換することで、ともに成長できる余地があると思います。これはAOIIの活動内容とも密接に結びついています。
Slush Asiaをどう活用するか。私たちがやりたいことは、様々なスタートアップとお客様の手つなぎを支援していくことです。前提となるのはスタートアップ企業の存在。そして主となる対象は、お客様が抱える問題や社会課題です。
■イベントの華やかさの一方で真剣なピッチイベント
渡邉 アクセンチュアがブリッジメーカーを目指すことと、Slush Asiaが出会いの場になることは、マッチしていますね。
坂井田 そうです。相思相愛の関係です(笑)。他方で、世間にあふれるオープンイノベーション関連のイベントとSlushの最大の違いは、スタートアップのピッチを重要項目として組み込んでいることです。
イベント全体で人と人との繋がりを強化し、新しいモノを生み出していくこと。その真剣さにおいて、Slushの意識は極めて高いです。
貝沼 ピッチのフィードバックもかなりシビアです。ビジネスコンテストにありがちな「レベルは高くないけどよくがんばりました」では終わりません。審査員から鋭い指摘があります。
ピッチは英語で行うのですが、日本のスタートアップの多くは英語ピッチに慣れていないため、事前にトレーニングを行うのもSlush Asiaの特徴ですね。
アンティ はい。今回はトレーニングセッション「PITCHING PERFECT」を、Slush Asia本番の3週間前、2週間前、1週間前の合計3回実施します。3回もトレーニングを行うのは、僕たちもスタートアップに成功して欲しいからなのです。
トレーニングでは「これが正しいピッチのやり方」を指導するのではなく、メンタル的な部分のサポートや、10人ほどのメンターの中から1人を選んでプレゼンテーションをトレーニングし、試行錯誤する機会を提供します。
■スタートアップのエコシステムをより良くするために
渡邉 この1年間で、日本のスタートアップのコミュニティに変化はありましたか?
アンティ 去年、上位入選したスタートアップは、既に資金調達に成功しています。 2位になったスタートアップもSlush Asiaが初めての英語ピッチでしたが、その数カ月後に3億円の調達に成功しました。実績が出ていることなど、スタートアップのコミュニティに変化を感じています。
そういえばSlush Asiaの影響かどうかはわかりませんが、“英語のみ”というビジネスイベントが日本でも増えているように思います。
貝沼 そうですね。それに、イベントをショーアップして、カッコよくする風潮が強くなったと思います。
アンティ ええ。スタートアップイベントで、アフターパーティにDJが登場することも増えました(笑)。
でも、僕たちの目標はイベントをスタイリッシュにすることではありません。スタートアップのエコシステムをより良くすることです。Slushで市場やコミュニティを独占したいわけではありません。たとえるなら、「まだ誰も踊っていないダンスステージで最初に踊ったのがSlushだっただけ。最終的には他の人たちにも踊って欲しい」と思っているんです。
坂井田 昨年のSlush Asia以後、スタートアップ・コミュニティの盛り上がりを私も実感しています。日本初のユニコーンスタートアップ(10億ドル以上の評価額を得ている未上場企業のこと)も生まれました。
スタートアップ関連のイベントでも、単発のイベントとして終わるのではなく、前後の期間にコミュニティとして機能して、情報が流通しあう機会が増えてきたように思います。
渡邉 スタートアップを取り巻く環境の課題は何でしょうか。
坂井田 アクセンチュア・オープンイノベーション・イニシアチブが感じている問題意識としては、日本のベンチャーは市場の視野が狭く、最終的にイグジットしていく時の規模が小さいというのも事情の1つでしょう。結果、シリアルアントレプレナー(連続して起業する人々)も米国と比べて圧倒的に少ない。
だからこそ私たちは、社会的に注目を集める花形のスタートアップを生み出し、それによって人とお金が集まる仕組みを作ろうとしています。コミュニティの中で循環していくサイクルの実現によって、私たちが日本の社会へ還元していくことを考えているのです。
貝沼 日本には「失敗してはいけない文化」が根強いですが、小さく始め、クイックに進め、失敗したらすぐにたたんで次のチャンスを掴むというエコシステムを作り上げたいと思っています。スタートアップの立ち上げを容易にすることで、新しいサービスの生まれやすい環境ができると思います。
大企業のお客様にとって従来の日本企業型の考え方・発想とは異なる文化・スピード感を持つスタートアップ企業と出会うことは大きなメリットです。その“出会い”のためにブリッジングをすること、すなわちスタートアップと大企業の緩衝材として我々が機能していくことが目標です。
坂井田 アメリカと日本を、オープンイノベーションというコンテキストで比較すると、アメリカでは1年間で3万社のスタートアップが生まれます。日本では推量したところ3,000社程度です。ですが、日本固有の課題を解決できる、日本生まれのスタートアップ企業があるはずです。
貝沼 日本だからこそ発揮できる強みですね。コミュニティとの対話を通じてイシューを紡ぐアプローチは、日本から世界に発信できる手法だと思います。