「クラウドによるイノベーションの実現」-アクセンチュア クラウド推進事業部初の社外セミナー
2017/02/20
2017/02/20
「クラウドによるイノベーションの実現」
2017年2月20日(月)、デジタル・ハブでアクセンチュア クラウド推進事業部主催の初の社外セミナーが開催されました。アクセンチュアは2016年以降、国や地域や部門を横断した全社的なイニシアチブとして、「Journey to Cloud(J2C)」の取り組みを本格的に加速化させています。クラウドという言葉だけは、数年以上前からITの世界では欠かせないキーワードとして存在しており、一聞するだけでは真新しさを感じない方もいるかもしれません。
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ウォーターファールからアジャイル開発、そしてDevOps。最近ではデザイン思考的なアプローチすらITの現場でも求められるようになってきました。こうした中、クラウドというテクノロジーが企業変革の引き金になるのであれば、日本企業におけるIT部門の役割は再定義されるべきであり、IT部門に所属するリーダーたちの新たなミッションを模索すべきであるとも言えるかもしれません。
こうした課題認識のもと、今回のセミナーではJ2Cの取り組みの実行主体であるアクセンチュア クラウド推進事業本部のアジア・パシフィック統括であるアマン・ニール・ドカニアと日本の活動をリードする市川 博久、が、慶應義塾大学 大学院政策・メディア研究科 特任講師 若新 雄純氏をゲストに迎え、社内外有識者を交えて 「クラウドによるイノベーションの実現」というテーマに挑みました。テクノロジーのアジェンダとしてのクラウドではなく、ビジネスの変革に向けたイネーブラーとしてのクラウドについて、参加した十数名のお客様企業の皆様と共に、議論・情報共有をさせていただきました。イベントのキーワードは「創発的なイノベーションを誘発することと、試行錯誤のプロセス。そしてそのために必要なクラウド」です。
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アクセンチュア オペレーションズ本部 マネジング・ディレクター
アクセンチュア クラウド アジア・パシフィック統括
アマン・ニール・ドカニア
一方で、これまでも、これからも日本企業にとっての大きな課題である「イノベーション」とは何なのでしょうか。なぜ、これまでの典型的な日本の組織体系や意思決定モデルでは、イノベーションを生み出せないのでしょうか。これも単なる組織論や既存の経営戦略論の延長線上で語られがちです。しかし、従来のビジネスの戦略や企業という組織における意思決定の在り方を違った見方で見つめ直してみる必要があるのではないでしょうか。
破壊的イノベーションとビジネス革新
冒頭で日本企業のイノベーションへの挑戦を紹介したアクセンチュア株式会社 チーフ・マーケティング・イノベ―ターの加治 慶光は、不確実性が高く、先が見えない経営環境について、「VUCA: Volatility(不安定)、Uncertainty(不確定)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)」という言葉を引用して紹介し、こうしたVUCAの時代においては、従来の延長線上にある戦略や特定の事業やビジネスに固執し過ぎることが如何にリスクであるかということを指摘しました。「アジリティや柔軟性が益々重要な時代であり、足跡を残さないほど俊敏さを重視し、深みにはまらず、その中から新たな機会を見つけて、価値あるビジネスに一気に投資する『ライトフットプリント戦略』が求められている。世界でイノベーションを生み出してきている先進企業は、これまで存在しないような仮説を試しながら、これまでにない新たな可能性を模索する素地を組織として持っており、そのためにクラウドは欠かせない」と加治は語ります。
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アクセンチュア株式会社
チーフ・マーケティング・イノベ―ター
加治 慶光
また、アクセンチュアが、過去10年以上にわたってビジネスや社会に変革をもたらすテクノロジーのトレンドとして発表してきた、「Accenture Technology Vision」のテーマの変遷にも着目し、過去4年前からはテクノロジーのビジョンが単なる技術のトレンドのみにとどまらず、イノベーションを生み出すための「人」の重要性に価値がシフトしつつあることを強調しました。加治は日本が「イノベーション=技術革新」と捉えがちであることを指摘しつつ、本来、シュンペーターの提唱したイノベーションはモノやコトの新しい結びつきや新しい切り口を意味していることに言及します。
New ITがもたらす世界
では、こうしたテクノロジーが今後私たちにどのような変化をもたらすのでしょうか。アクセンチュア株式会社 デジタル コンサルティング本部 マネジング・ディレクター 兼アクセンチュア・デジタル・ハブ統括の保科 学世は、それを「AIの能力が人間を超える「技術的特異点」(テクノロジカル・シンギュラリティ)」だと述べます。「日本は少子高齢化によって労働人口が減少しており、2030年には労働力が1000万人分不足すると予想されています。女性の就業環境改善や外国人労働者の活用、若者の就業ミスマッチ解消などの取組みが進んでいますが、これらだけでは労働力不足は補えないでしょう。」日本は今後、ロボティクスやAIを社会や企業の中に取り込んでいく必要性に迫られています。しかし単に不足する労働力を機械に置き換えるということではありません。
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アクセンチュア株式会社 デジタル コンサルティング本部 マネジング・ディレクター
兼 アクセンチュア・デジタル・ハブ統括
保科 学世
知識量やスピードといった点では、もはや人は機械には敵わなくなっていきます。一方でそうしたなか、モノゴトの価値判断、絶対的な正解が無く、人間自身が決めなければいけない領域の仕事はこれまで通り人間がやらなければならないでしょう。他者への共感も重要な要素です。「こうしたテクノロジーを単なる既存の延長線上にある事象であると捉えるのではなく、テクノロジーによる破壊を機会として捉え、日本企業が持つ独自の優位性とNew ITを組み合わせ、イノベーションを創出していくべきです」と保科は述べ、こうした新たなテクノロジーや企業の試みを集約する基盤としてクラウドが重要だと強調しました。
先読みしづらい時代におけるITリーダーの役割
さらに、アクセンチュア株式会社 クラウド推進事業本部で、J2Cのイニシアチブをリードする市川 博久は、クラウド化を推進する企業も多い中、「どのようにクラウド化を推進していくのが正しい解なのかが非常に見えにくい時代」だと述べます。1980~1990年代までは日本は経済も右肩上がりで、「努力をすればした分だけ報われる」というのが当たり前の時代でした。日本は資金や労働等の資源の投下量に比例して、成長を享受してきました。しかし、その「努力は報われる」という考え方は、もはや通用しなくなっています。「努力は尊いことです。しかし、その社会のあり方や経済はもはや破綻しているのではないか、制度疲労しているのではないか。現代日本の企業や社会の状態を見てるとそう思えてきます。」と市川は語ります。
しかし、かといって、失敗することが許されない、ゼロサムゲームのような構造の社会で成長してきた私たちにとって、「チェンジメーカーになれ」、「リスクを恐れずに挑戦せよ」といわれても、簡単なことではありません。失敗は誰もが怖いものであり、そもそも失敗を許容するシステムが存在していないのです。
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アクセンチュア株式会社 クラウド推進事業本部 マネジング・ディレクター
オープン・イノベーション・イニシアティブ ソーシャルシフトユニットリード
コーポレート・シチズンシップ推進室 若者の就業力・起業力強化チーム責任者
市川 博久
有名な「イノベーションのS字カーブ」では、新たな市場の萌芽期や発展期(”0->1”の世界)があり、その後、市場が成熟(“1->100”の世界)していくサイクルが示されています。右肩上がりの時代に生まれ、教育を受けてきた多くのビジネスパーソンはこの”1->100”の世界を生きているといえます。しかし「明日を生きるための答えがわからない時代」においては、試行錯誤がより重視され、イノベーションサイクルがどんどん短縮化されます。そのため、「新たな価値創造」や「命題の設定力」の重要性が益々大きくなります。テクノロジーや経営の知識を有していることは大事なことですが、真に必要なことはこうした新たな価値創造やこれまでにない命題設定を如何に創発的に行い、自走させていくかです。
では、このクラウド時代に問われるITリーダーの在り方とは何でしょうか。加治は、イノベーションのためには、リンダ・クラットン氏が著書「ワークシフト」の中で述べている「同じ志を持つ仲間=「ポッセ」」の存在が欠かせないとします。また、市川は、著名なリーダー像を引合いにだし、日本人に必要なのは「“悪ふざけ”のできる同志によるチームビルディング」が重要と語ります。「1人ではとてもできないような悪ふざけも、チームになれば成せる。それが日本人的なチームビルディングだと思います。そうしたチームを率いるリーダーに必要な素質は、“イノベーションを起こす触媒”だといえます。答えがわかっていることが前提でチームメンバーをナビゲートするようなリーダーではなく、「創発をナビゲートするリーダー」こそが、いま、新しいリーダー像として求められているのではないでしょうか。」
ビジネスにおけるイノベーションのトリガーとは?
最後に今回、ゲスト講師として最後に登壇した、慶應義塾大学 大学院政策・メディア研究科 特任講師 若新雄純氏は、女子高生がまちづくりを担う「鯖江市役所JK課」や自身が手掛けた福井県鯖江市で提案・実施した市民協働プロジェクト等の取り組みを紹介し、「イノベーションという概念を難しい理屈や理論だけで考えてしまうと、具体的な実践につながらない」と指摘します。
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慶應義塾大学 大学院政策・メディア研究科 特任講師
国立福井大学 産学官連携本部 客員准教授
株式会社NewYouth 代表取締役
若新 雄純氏
解決すべき課題が見えていた時代においては、誰よりも効率性を追求し、知識・スキルを高め、より早く、正確に、より高いアプトプットを出すことが価値につながった。しかし、こうした効率性や正確さによって価値を創造しようとする取り組みは、すでにやり尽くしたのではないか。「現代は、明確な答えが存在しない時代。何が正しかではなく、そこにはいくつかの選択肢があるべきです」と若新氏は話す。
これまでにない新たな価値は、従来の仕事や業務の先にある目に見える成果を意識していても生まれない。若新氏は、「そのためには、第三者の評価を気にせず、言いたいことがいえる環境や、よいと思ったものはすぐに実行できるような、試行錯誤のプロセスが重要」だとし、イノベーションのトリガーとは「試行錯誤そのものを充実させる」ことだと話します。
「ドキドキしたり、わくわくしたり、そうしたシンプルだけど人間的な部分が大事であり、それが企業で働く人にとっても心理的モチベーションとなり、他者の共感を生み、イノベーションの種を生み出す可能性になる」と語る。
とはいえ、こうした、「新しい何か」を模索する創造的活動は、忙しいビジネスパーソンが従来の仕事やビジネスの枠組みを超えて行うことは簡単ではない。クラウド等のテクノロジーを活用し、既存の業務の生産性を高めることで、「成果や評価を気にせず、新しいことを試行錯誤できる余白をつくる」ことが重要だと若新氏はクラウド化の真の価値について持論を展開しました。
クラウドが、単なるテクノロジーのプラットフォームではなく、悪ふざけできる仲間(ポッセ)と共に試行錯誤を繰り返し、これまでにない新たな価値を創発していくための、イノベーションのプラットフォームになる。こんな世界をJourney to Cloudの先に描けたら、日本に新たな可能性が生まれるのではないでしょうか。