銀行業界におけるデジタルトランスフォーメーション
2018/08/29
2018/08/29
2018年8月29日、アクセンチュアとオラクルは「銀行業界におけるデジタル・トランスフォーメーション」と題するセミナーをアクセンチュア・イノベーション・ハブ東京(AIT)にて開催。セミナーには金融業界の関係者が参加し、銀行業界のデジタル化のあり方や最新事例を学ぼうと、熱気あるイベントとなりました。
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銀行業界におけるデジタル化の取り組みが本格化
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基調セッションの冒頭に登壇したのは、アクセンチュア 金融サービス本部 銀行グループ統括 マネジング・ディレクター の宮良 浩二(みやら こうじ)。宮良はアクセンチュアで銀行業界・クレジットカード業界・コンシューマーファイナンス業界およびリース業界などを担当しています。
「昨年(2017年)は節目の年でした。昨年から銀行業界のお客様におけるデジタル化の取り組みが本格化している実感があります」と宮良は述べ、昨今のトレンドを振り返りました。
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デジタルによる再構築を実現するための4つの視座
銀行業界の企業がデジタルのパワーを活用するには、次の4つの視座において「デジタルによる再構築」を検討する必要があると宮良は説きます。
(1) ビジネス的な視座
(2) 業務的な視座
(3) テクノロジーの視座
(4) 組織運営の視座
デジタルによる再構築 (1) ―― ビジネス的な視座
「ビジネスの視座」としては、デジタルディスラプトとコスト削減を両輪で展開することがカギとなります。ボトムラインに効果が出る施策を展開するには投資が必要であり、そのためには新規のデジタル投資を可能にする「余力」を生み出すことが重要です。ポイントは次の2つ。
●ITシステム更改など、経営層やユーザーの視点では「変化がない」と感じられる施策に、プロジェクト予算の7〜8割が使われている。これを削減し、投資に向けるサイクルを構築しなければならない。
●旧来から、コスト削減は顧客サービスとトレードオフであると思われている。しかしデジタルによって、コスト削減と顧客サービス品質の向上は「両立可能」となった。
デジタルによる再構築(2) ――業務的な視座
昨今、デジタル化によってビジネスにおける前提となる常識が変革されています。従来の「業務は人が行うもの」という考え方から、「業務はテクノロジーに任せるもの」という考え方へと変化しています。今後「人がやらなければいけない仕事」は、「人でなければできない仕事」や「人がやるからこそ付加価値が生まれる仕事」へとシフトしていくでしょう。
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RPAという言葉ひとつとっても、次の3つのステージがあると宮良は説明します。
第1段階「RDA(ロボティック・デスクトップ・オートメーション)」
いわゆる入力作業を自動化する施策。銀行業務全体の効率化の観点でいえば、2〜3%の改善が見込めます。
第2段階「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」
ロボットを用いて業務プロセスそのものを自動化する施策。たとえば口座開設、外貨送金、リスク管理レポート作成など、アウトプット全体でロボティクスを適用する考え方です。銀行業務において約10%の効率改善が見込めます。
第3段階「RBA(ロボティック・ビジネス・オートメーション)」
ロボットを最大限に活用して、より高い視座でビジネスのあり方を変革する施策。
「これからはRDA、RPA、RBA。このような3つのステージに分割して業務にメスを入れるという視座が必要となるでしょう」(宮良)
デジタルによる再構築(3) ――テクノロジーの視座
ITの視座においては、「2スピードアプローチ」がこれからは重要になります。
一般的に、金融機関のプロジェクトは長期間におよびます。数年を要することは当たり前で、ある銀行で行われたプロジェクトを調査したところ、100日未満のプロジェクトは1つもありませんでした。これは安全志向・品質重視の証拠でもあります。
しかし、新しいビジネスを実現するには、新しいテクノロジーの活用が不可欠です。ウォーターフォール型のアプローチだけでなく、意思決定プロセスもまったく新しいスピードを実現する手法を取り入れなければいけません。フロントシステム部分は短期間で素早く刷新し、しがらみの大きいバックエンドの既存システムは中長期で段階的に置き換えるなど、2段階のアプローチ(2スピードアプローチ)を取ることが重要となってきています。
デジタルによる再構築(4) ――組織運営の視座
改革的なプロジェクトを進めると、現業とのコンフリクトがほぼ必ず発生します。「現在のビジネスと、どのように整合性をとるのか。それには銀行の中に銀行を作るような考え方が重要です」と宮良は話します。
「ITもレガシーに寄せていくと、できることが限定されてしまいます。組織運営を抜本的に改革し、スピードを高めることで競争力の向上を実現させるべきなのです」(宮良)
そのためのアプローチが組織横断型の部署を創設する考え方です。その部署の特徴は次の4点です。
●サイロ化した縦割り組織ではなく、社長直下の特区のような部署である。
●ビジネス、デザイン、システムの三位一体体制として、専門人材を集結させるプロジェクトチームである。 (ビジネスを熟知している人材、ITとシステムを把握している人材、カスタマーエクスペリエンスとデザインが可能な人材などを集めたチーム)
●既存ビジネスの影響を受けず、新しい発想でビジネスモデルを創造できるチームである。
●後続のフェーズでも実行力を担保できるよう、社内の各部門と十分に連携できる。
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デジタル・トランスフォーメーションの3つの考え方
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基調講演はここで、アクセンチュア 金融サービス本部 ディストリビューション & マーケティング グループ統括 マネジング・ディレクター木原 久明(きはら ひさあき)にバトンタッチ。木原は日本と世界におけるデジタル・トランスフォーメーションの最前線を紹介し、その特徴や傾向を解説しました。木原はまず、デジタル・トランスフォーメーションは3つに分類できると説明しました。
(1) D4C(Digital for Customer)=顧客接点でのデジタル再構築
主に商品/サービスやチャネル、コミュニケーションのデジタル化。
(2) D4E(Digital for Enterprise)=銀行業務のデジタルによる再構築
ロボットによる業務の代替。APIで外部データを取り込み活用する、紙媒体などの非データ情報をAI-OCRなどを用いてデータ化することなどが主なアジェンダ。
(3) データマネジメント
デジタルによって収集されたデータをどうビジネスに利活用するかがテーマ。データには「顧客接点で取得できるデータ」と「業務処理過程で蓄積されたデータ」の2種類がある。
台頭するデジタルカスタマーにどう適応していくか
木原は「デジタルカスタマーが台頭し、銀行側がお客様をコントロールすることが困難になっています。情報もお客様が多く持っており、ビジネスの主導権もユーザー側が有利であると認識しなければいけません」とD4Cの実情について解説し、これからのB2Cビジネスにおいては、顧客視点をどれだけビジネスに取り込めるかが極めて重要であることを強調しました。
そのためには顧客体験を本質的に捉え、顧客が何を考え、何を見て、何を感じているかを理解し、顧客の夢や欲望の実現を支援するサービスを提供することにリソースを割くべきです。
金融は、その語源であるラテン語の「Fin(終わり)」の通り、ショッピングや飲食などの体験の後に位置するサービスです。しかしこれからは購買行動の最後に選択される存在であることを脱し、金融機関も顧客の欲望(価値観、嗜好)を掴み、人生全体に渡って顧客を支える存在へと変革しなければならないともいえるでしょう。
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欲しいものを銀行で探すという発想で、情報コンテンツを提供するモバイルアプリ。顧客への情報提供や送客モデル、決済などを勘定系に依存しないテクノロジーで実現。
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「人にしかできない仕事」で付加価値を出す
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一方、あらゆるサービスがデジタルで完結できるかというと、そうでもありません。高額商品の購入においては、やはり人間によるカウンセリングが効果的です。
住宅ローンの提案においても、「快適な住環境の提案」のようなサービスを、銀行とアライアンス先が提携して提供できるモデルが重要となるでしょう。
デジタル技術と人が上手く連携してサービスを提供する「Digital-Human-Digitalの流れの実現が重要です。コモディティ化のループから脱却するには、店舗やコールセンターにおける、人間にしかできない仕事に着目して議論するべきです」(木原)
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銀行業務のデジタル化は、店舗のコスト削減と顧客体験の向上を両立可能です。ペーパーレスの発想による店舗運営の施策が増えていますが、これはコスト削減だけでなく、カスタマーファーストの考え方に基づいてデザインするべきなのです。
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【事例】インテーザ・サンパオロ(イタリア)
窓口業務もタブレット化し、オペレーションをペーパーレス化。顧客はID/パスワードを使ってサービスを受けるほか、IDを持たない場合でも複数のデジタル証明によって同様のサービスを受けられる。窓口の手続きが簡素化される顧客体験を実現。
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業務改革の「武器」としてロボットを活用する
D4E(Digital for Enterprise)の取り組みを推進すると、究極的には人が手がける銀行オペレーションはすべてロボットに代替することが可能です。
RPAやRBAも、従来のBPRの限界を超えてコスト効果を発揮できる点に強みがあるといえるでしょう。業務改革の武器として、いかにロボットを活用していくかが議論すべきテーマなのです。
「そのためにはまずは使ってみる。アジャイルなアクティビティがこの施策では求められます」と木原は説明します。
「顧客単位」管理のためのデータマネジメント
続いて木原は、アクセンチュアが「360°カスタマービュー」と呼ぶ、リテールビジネスの新たな方向性と在り方を紹介しました。一般的に銀行業務のデータは「商品単位」や「取引単位」で管理されます。しかし、これからは「顧客単位」の管理が求められるでしょう。
それには銀行内部の情報だけでなく、外部のデータソースの活用など、あらゆるチャネルのデータの利用が必要になります。その際に重要なことは推定・予測データも紐づけて管理することです。
「従来、データは業務処理や顧客対応のために収集されていました。しかし、これからは顧客理解や提案最適化のために蓄積されます。トランザクションの断面だけでなく、外部データや履歴も活用して推定・予測のモデルを構築する必要があります。いわば、お客様視点でのデータ活用がこれからのCRMの根幹となるのです。また、分析エンジンも複数のAIを使い分けるAIマネジメントが重要となります」(木原)
銀行のデジタル化を支援する、アクセンチュアのソリューション
銀行業界のお客様のデジタル・トランスフォーメーションを実現するには、上記のような考え方やアプローチが有効です。アクセンチュアはそれらの実装をお手伝いするソリューションを提供しており、金融機関のお客様のデジタル化をご支援しています。
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基調講演は来場者との質疑応答を経て、後半はオラクルのVP CX EMEA & APAC, Oracle Product DevelopmentであるMichel van Woudenberg(ミシェル・ヴァン・ヴォ―デンバーグ)氏の講演が行われました。
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ヴォ―デンバーグ氏は金融業界で進行中のディスラプションについて語り、データ、インテリジェンス、そしてエクスペリエンスを接続することが重要であると説明。また、そのためのソリューション選択として、部分最適に陥りやすいポイントソリューションではなく、全体最適を実現できるソリューションを選択する必要があると語り、整備されたアーキテクチャーのもとで一貫したソリューションを提供できるのがオラクルの強みであると説明しました。
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また、会場内にはデモブースも設置され、来場者はデモの説明にも熱心に耳を傾けていました。