共通性に注目する

共通性に注目する

2011 October

世界の大企業の間で、一種の呪文のように唱えられている言葉がある。「この景気後退を抜け出し、新興市場の大いなる可能性に賭けよう」

言うは易し、行うは難し。アクセンチュアが世界各国の消費者を対象に2010年に行った調査結果は、新興市場における顧客の獲得と維持がきわめて難しいことを示している。たとえば、特に注目を浴びている新興市場では、成熟市場と比較してサービスに対する消費者の期待値が著しく増大し、過去1年間の増大率は前年比30~50%に達している。また顧客の離反率も、新興市場では成熟市場の倍近いことが明らかになった。

一方、この調査では世界各国の消費者にいくつか共通点が見られることも分かった。たとえば、消費者のロイヤリティを最も高めるものは、どの市場でも「信頼感」である。また新興市場でも成熟市場でも、消費者はいわゆる「マルチチャネル・ショッピング(オンラインショップや実売店など複数の購買チャネルを自由に選択できる)」を好むことが判明した。そのほか、消費者が製品やサービスに関する信頼できる情報源としてソーシャル・ネットワークをはじめとする口コミ情報を最も重視していることも、共通している。

ようするに、新興市場と成熟市場には際立った類似点と顕著な相違点が共にある。では、新興市場で成功を目指す企業は、このように明白な矛盾をどう捉えればいいのだろうか。

大半の企業は、2つのシンプルな事業モデルのいずれかを選ぶことで、この問題と向きあうことを避けてきた。

第1のモデルは、地元市場でのフランチャイズ展開手法を新興市場にも当てはめ、成長を目指す方法だ。マーケティング、販売、サービスといった主要機能に関する自社の標準的アプローチに各市場のニーズに合わせた変更を加えてから、導入する方法である。ただしこの方法では、ローカリゼーションという名目で各種機能を作り変えるため、経営モデルが著しく複雑化することになる。第2のモデルは、地元市場で成功した消費者戦略や経験を新興市場にそのまま流用することで経営モデルを簡素化する方法だが、この場合には、もとの戦略が新興市場にうまく当てはまるとは限らないという問題がつきまとう。

具体的な事例を紹介しよう。米国のある大手小売企業は、特定の顧客セグメントの嗜好や行動様式に合わせて調達から販売までのプロセスを構築する、いわゆるカスタマーセントリック・ビジネスモデルを導入していることで成熟市場ではよく知られていた。そこで自社の成功を支えているその戦略を中国市場にも展開したが、価格にきわめて敏感な中国の消費者にとって、同社の価格設定は高すぎるという結果になった。また金融業界では、過去10年間にわたってグローバル市場への事業拡張プログラムが非常に積極的に展開されてきた。しかし現在、これらのプログラムの多くは棚上げ状態にある。金融大手の多くが、新興市場における金融サービス利用者の多様性に対応するために必要な経営コストや複雑性を過小評価していたためである。

とはいえ、新興市場の消費者だけではなく、今日のグローバル市場における様々な消費者を獲得・維持するのに効果的な方法はもちろんある。各市場の消費者の違いを尊重しつつ、共通点をうまく活用する方法、すなわちグローバル・カスタマー・ポートフォリオ・アプローチだ。Facebookを例に考えてみよう。7億5,000万人超のユーザーを誇るFacebookは現在、いわば世界第3位の大国とも言うべき巨大Webサイトになった。グローバル・カスタマー・ポートフォリオ・アプローチをFacebookに導入すれば、ユーザーをその地理的特性でセグメント化する必要はなくなる。地理的境界は無視してすべてのユーザーを1つのグローバル・ポートフォリオにまとめ、ニーズや関心といった特定要素を共有する「集団」にセグメント化すればよい。

トップ企業の中にはすでに、従来の分析手法を用いて、1つのグローバル・ポートフォリオに属する顧客を地理的特性ではなく共通特性からセグメント化しているケースがある。たとえばP&Gでは、インド地方部の消費者と中国やメキシコ地方部の消費者が共通のニーズを持っているとして、1つのセグメントと捉えている。似たような例として、ムンバイの消費者は、インド国内の農業従事者よりも上海や東京、ニューヨーク都市部の消費者と共通する特性を持っている。またサハラ以南アフリカにおいては、消費者は5つのセグメント(貧困層、労働者層、新興勢力層、専門職業層、富裕層)に分類されるが、いずれのセグメントにもこの地域の主要市場全般にわたって類似した行動様式が見られる。

トップ企業はさらに、一歩進んだ戦略的セグメント化手法を用いて、顧客基盤の中の個々のセグメントに対し、「代表」となる地域を見いだしている。

このようなグローバル規模のセグメント化アプローチを導入することで企業は、より効果的に、より多くの消費者にターゲットを拡大できる。そのためには各国の類似市場に、共通のマーケティングメッセージや同程度の販売モデルを当てはめ、同様の手法や顧客接点(タッチポイント)を採用すればよい。それと同時に、製品やサービスを個々の地域市場に合わせてカスタマイズすることも可能だ。

南米金融機関の最大手の1つ、ブラジルのイタウ・ウニバンコ銀行では、グローバル規模のセグメント化アプローチによって得られた知見を活用して、個々の顧客に合わせてパーソナライズした顧客体験を提供し、約5,000の支店でサービスを向上させた。同行が先ごろ行った広告キャンペーンは、各分野の専門家を「グローバル・ラテン・アメリカン」と名付けたキャッチコピーを展開し、国内外で急成長を遂げているブラジル中流階級層をターゲットとしている。同行の積極的な買収戦略やリテール・クレジット事業への注力は(2011年4月にフランス小売大手カルフールの金融事業のうちブラジル部門の株式49%を取得するなど)、国内低所得者層の地位だけではなく、同行の知名度を大いに高めている。

フォルクスワーゲンのアウディ・ブランドの事例も参考になる。アウディは世界市場の消費者ニーズや要望を巧みに活用して、西ヨーロッパからインドに至るまで、さまざまな消費者セグメントをターゲットとした製品を生み出してきた。その過程でアウディは高級車市場として、運転手を雇い、車の乗り心地を重視するエグゼクティブ層に着眼した。そして、中国ではこの消費者層向けに、A4およびA6モデルにロングホイールベース・タイプを導入した。この事例に限らず、他のあらゆる市場でも言えることだが、同社は世界市場に高品質で革新的な製品を提供することを常に重んじると同時に、個々の市場ニーズや状況に合わせてカスタマイズした製品やサービス、価値を提供している。

また、フランス・テレコムのオレンジ・ブランドの場合は、深く踏み込んだきめ細かな顧客セグメント化によって得られた知見をもとに、アフリカと中東でマーケティング・プログラムを展開し、成功を収めている。

企業はまた、複数の地域にわたって共通の価値提案、製品やサービス、マーケティング・キャンペーンや販促プログラムを導入することで、世界規模で消費者イノベーションの価値を大きく加速・強化することが可能だ。たとえば米国のある大手消費財企業は、メキシコシティーで成功した製品をベースとして、米国南西部ヒスパニック市場において類似する顧客セグメントのニーズに合わせてカスタマイズをし、導入した。これも、2つの国におけるセグメント化アプローチを活かし、マーケティングを簡素化させた戦略だと言えるだろう。

フォード・モーターの場合は、製品開発に先立ちドライバーを「デザイン」する戦略を採っている。ドライバーの居住地域は考慮せずに、特定の車種を好む典型的なドライバー層を特定するのである。この手法により同社は、モントリオールからモスクワまで、あらゆる市場のドライバーの要望と夢をかなえうる革新的モデルを開発してきた。

チェコの金融・投資企業PPFは、これまで厳しく制限されていた中国政府による消費者金融業界への規制緩和を受けて、2010年12月、同国初の外資系消費者金融会社、ホーム・クレジット・コンシューマー・ファイナンス社を設立した。

その際に同社は、中欧および東欧の事業から得た消費者に関する知見のほか、同市場で成功したマーケティング・アプローチを活用。中国の消費者が、中欧・東欧市場の消費者と同様に低所得ながら、洗濯機などの耐久消費財や携帯電話に対して高い購買意欲を持っている点に着目したのである。
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世界の消費者は決して均質ではない。それでも、類似した特性を持つ顧客セグメントを特定するとともに、経済的・社会的状況によって生じる地理的差異を認識・尊重することで、企業は各セグメントの消費者をはるかに捉えやすくなる。それによって、あらゆる市場でイノベーションを促進し、利益につながる成長を加速できるようになる。


筆者について
ロバート・E・ウォラン(Robert E. Wollan)はアクセンチュアのカスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)サービスライン担当グローバル・マネイジング・ディレクターである。20年以上の経験を有し、アクセンチュアが世界でサービスを展開する19の業界にわたって、カスタマーセントリック・マーケティング、営業・サービス・顧客オペレーション、高度なセグメンテーション、デジタルトランスフォーメーションやソーシャルCRM、マルチチャネル・カスタマー・コンタクト、エンタープライズ・サービス・デリバリーを担当する専門家のグローバルチームを率いている。同氏は米国ミネソタ州ミネアポリスを拠点として活動している。

陈泽奇(Tzeh Chyi Chan)はアジア太平洋地域におけるアクセンチュアCRMサービスラインを統括している。顧客セグメンテーション、クロスセル・モデリング、チャーン・マネジメント(通信業界における顧客の解約・離反管理)、顧客維持、ロイヤリティ・マネジメントといった分野で豊富な経験を持つ。同氏は北京を拠点として活動している。

グラント・ハッチ(Grant Hatch)は南アフリカ共和国におけるアクセンチュア戦略グループを統括している。小売、消費財、健康医療、運輸、自動車業界などを対象とした経営コンサルティング事業の責任者である。同氏はケープタウンを拠点として活動している。

ミシェル・ヴァンジル(Michelle van Zyl)は南アフリカ共和国におけるアクセンチュア戦略グループのマネジャーである。アクセンチュア入社以前には、リテール・バンキング専門の戦略コンサルタントとして活躍した。同氏はヨハネスブルクを拠点として活動している。

ピーター・J・ベッカー(Pieter J. Becker)はアクセンチュア・プロダクト戦略グループのコンサルタントである。成長戦略、M&A、戦略的経費削減、市場評価、市場拡大などを専門とする。同氏はヨハネスブルク拠点として活動している。

本稿の執筆には、アクセンチュアCRMサービスライン担当のシニア・マネジャーで、カスタマーセントリック・マーケティングを中心に手がけるオリヴァー・シャンク(Olivier Schunck )も貢献している。


共通性に注目する:グローバル市場での成長と顧客セグメント化 |Outlook|アクセンチュア 
世界各国の消費者を購買動機、考え方、行動様式などの共通項で分類することで、グローバル市場で利益がでる成長を達成できるとする、アクセンチュアのCRM関連の論考。Outlook2011年10月。
顧客セグメント、CRM、グローバル成長 
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