調査レポート
アトムとビットが出会うとき
新しい現実世界の礎を築く
所要時間:約10分
調査レポート
新しい現実世界の礎を築く
所要時間:約10分
買い物をするとき、私たちはお店に行くか、ECサイトへアクセスします。仕事をするときは、リモートで各々のロケーションから、あるいはオフィスへ行き仲間とともに仕事をします。私たちは人やコンピュータと共同で作業を行いますが、通常はそれらを同時に行うことはありません。現実世界とデジタル世界の間を行き来することは、困難を伴ったり、混乱を招いたり、時に不可能です。
今、私たちが生きている現実世界にはアトム(原子)で構成された物理世界とビット(情報)で構成されたデジタル世界の2つが併存しています。しかし、ビジネス変革の次の波によって、その世界感は大きく変わろうとしています。従来、独立して存在していたデジタルな機能は、リアルな原子空間とデジタルな情報空間が”なめらか”に融合しあう新世界へと移り変わっていきます。徐々に変化をするというよりは、一足飛びに進化を遂げる必要があります。これまでとは根本的に異なる新たなモノを創造できるようになるーこれがアトムとビットが融合した世界の真価です。ジェネレーティブAIを見てみましょう。多くの人々が純粋にデジタル画像やコンテンツを生成するためにこのAIを使っています。私たちはすでに、このAIがサイエンスの未来、企業データ、製品の設計・製造方法、その他多くのものを形作ることになる世界を予見しているのです。
長年にわたり、企業における変革の柱は、ビジネスプロセス、組織の一部、または組織全体をデジタル化することでした。そうして私たちは豊かで有意義なデジタルの世界を築き上げてきましたが、物理的な現実世界との整合性は現在取れていません。
昨年のテクノロジービジョンで、私たちはデジタル・トランスフォーメーションの次の大きなステップとしてメタバース・コンティニュアムを挙げました。メタバースは、アトムとビットが融合する分岐点であり、これまでにない共有現実世界の実現を加速させます。
私たちは、ビジネスにおけるテクノロジー・イノベーションの最前線に到達しました。 単にデジタル化するだけでなく、デジタルの基盤を実用化する時が来ました。しかし、メタバース、デジタル・ツイン、拡張現実(AR)、ロボティクスは強力な手段ではありますが、まだこれらは始まりに過ぎません。リアル(アトム)とデジタル(ビット)の融合は、新しい製品やサービスを生み出すだけではなく、新時代のサイエンス研究の原動力となります。すでにリーダー企業は、新たなツールを発明し、ディスラプション(創造的破壊)を起こして世界の仕組みを書き換え始めています。そして、アトムとビットが衝突するとき、真に新しい可能性が生まれるということが明らかになりました。
今年のテクノロジービジョンは、アトムとビットが出会う未来を形作る4つの技術トレンドについて解説します。
デジタルアイデンティティは、次世代の技術革新の起爆剤となりつつあります。既に世界の主要なイノベーターたちはデジタルアイデンティティに対する取り組みを始めています。
今日の取り組みが、将来の革新的なビジネスを直接形作ることになるでしょう。デジタルアイデンティティはCIOやCTOに閉じた概念に思われるかもしれませんが、全経営幹部(C-suite)の事業領域を下支えしている非常に重要な概念です。
初期のイノベーターたちは、デジタルアイデンティティが過去の過失を補強するだけでなく、今後劇的に変化するデータ共有と所有に対して企業の将来を保証するものであることに気づいています。信頼され、ポータブルなデジタルアイデンティティのコンセプトは、私たちが受け入れてきた慣習の多くにおいて破壊と創造をもたらすでしょう。
国連は「持続可能な開発目標」の一環として、2030年までにすべての人に法的な身分証明を発行することを求めています。企業は近い将来、国家レベルのプログラムと統合するために、この取り組みに追随することが求められるかもしれません。
もしまだ企業として取り組みを開始していないのであれば、デジタルアイデンティティを変革の一部に据えるべきです。
もしまだ企業として取り組みを開始していないのであれば、デジタルアイデンティティを変革の一部に据えるべきです。
2つのカテゴリーについて考えてみましょう。国民の身分証明のようなコア・アイデンティティと、運転免許証番号のような機能本意なアイデンティティについてです。
私たちは、特定の目的のために機能的な情報の断片を取り上げ、それをコア・アイデンティティとして使用します。例えば、電話番号は機能的な連絡先情報の一部です。しかし、電話番号は私たちのデジタルライフへの入り口であるため、コア・アイデンティティのように使用され、今、その結果を目の当たりにしています。SIMスワッピングと呼ばれるサイバー攻撃では、ハッカーが携帯キャリア会社を騙し、攻撃対象者の電話に紐づいたあらゆる個人情報を新しいSIMカードに移行させます。その時点で、攻撃対象者の電話番号に送信された情報はすべて、サイバー攻撃者が代わりに受信することになります。
デジタル世界と物理世界の関係を再構築するとき、私たちは過去の過ちを避けたいと思うでしょう。その最たるものが、インターネットがデジタルアイデンティティの保護を念頭に置いて設計されていなかったことです。しかし、一流のイノベーターたちは、このアイデンティティのベースレイヤーを作り、ウェブへの新たなオンランプとなるソリューションを生み出しています。
すでに、政府、官民パートナーシップ、草の根の努力によって、デジタルで生まれた中核的アイデンティティが出現し始めている。
なかでも、非中央集権型(分散型)プラットフォームを構築するというアプローチが普及しはじめています。自己主権型アイデンティティ(SSI)として知られることもあるこの取り組みは、ブロックチェーンと分散型台帳技術に基づいており、認証・検証はブロックチェーン(分散台帳)の情報に基づき行われます。
分散型アプローチの利点は、安全性、セキュリティ、信頼性の向上ですが、分散化の性質上、目的に合わせて物事を構築するのは難しいです。ユーザビリティ、相互運用性、アカウント回復への懸念は、採用に支障をきたす課題です。
コア・デジタルアイデンティティ導入の取り組みと並行して、アイデンティティに関する諸々の機能についての再考も進められています。データ作成や関連付けの方法、アイデンティティデータの共有・管理手法、エコシステム全体での所有権のバランスといったものです。
例えば、Permission.ioやスターバックスは、トークン化を活用してアイデンティティ領域でイノベーションを起こしているます。トークン化とは、ある「モノ」(物理的、デジタル、ユニークであるないに関わらず)を取り出し、関連するデジタル資産を作成するプロセスで、多くの場合ブロックチェーン上に保存されます。スターバックスとPermission.ioは、顧客や消費者のロイヤリティ(愛着)とアテンション(興味や関心)をトークン化しています。
近い将来、すべての企業はアイデンティティとデータについてこれまでとは異なる考え方を迫られることになるでしょう。例えば、アップルやグーグルが実施したプライバシーポリシーの方針変更により、企業は現在依存している第三者や消費者のデータにアクセスできなくなるかもしれません。そうなった場合には、各企業に甚大な影響が及ぶでしょう。
消費者はこうした変化を歓迎することが多いですが、企業は当然ながら神経質になっています。
現在の「追跡と調査」のためのデータエコシステムから「同意と価値」のためのデータエコシステムへの移行が進みます。この過程で生じるデータパイプライン上の混乱に対して、企業は十分に備える必要があります。テクノロジーで解決できる問題は半分程度に過ぎず、企業はコア・デジタルアイデンティティ普及後、いかにアイデンティティデータにアクセスし、法に基づいて維持すべきか、自問自答を繰り返す必要があります。
コア・デジタルアイデンティティの導入に積極的な企業は、強固なセキュリティを確立して、顧客やパートナーと新たな信頼関係を築くことができます。何より重要なことは、企業の未来のために有利なスタートを切ることができるとともに、より良いデジタル環境やより良い世界への前進を加速するために貢献することができます。
一昔前は、私たちは食事をするお店を決めるために、知り合いの評判や専門家によるガイドブックを参考にしていました。しかし、2005年に米国でイェルプが登場し、彼らの提供するデジタルの顧客レビューサイトによって人々の行動と意識が大きく変わりました。
ダイナースは常に顧客からの意見を所有していましたが、どこにも記録されておらず、もちろんアクセスもできませんでした。イェルプはまさに、「透明性の窓」を作ることで私たちが暮らす生活の一部を明確かつ詳細に、そして広範囲に見渡すことができる世界を実現しました。
私たちはデータを通じて、ビジネスプロセス、消費者、市場の変化、投資、企業のリーダー、そして業界全体に対する洞察を得ることができます。ビジネスを見通せるようになったことで、企業は新たな期待を抱くようになりました。それは、人々はリアルタイムにデータを見たいと思っているということです。
私たちの周りに存在するデータは、希少な(あるいは秘密の)データから、体系的に数値化され利用可能なデータへとその種類が移行しつつあります。まず、ほとんどの企業のデータ・アーキテクチャは、このレベルの透明性に対応できるように残念ながら構築されていません。多くの企業がデータ戦略を実現しても、データを十分に活用できていないのです。
第二に、データ・アーキテクチャが最先端であるか否かにかかわらず、データが豊富に存在する世界ではデータに関する戦略も変化させる必要があります。データを保有しているだけでは不十分で、データから分かる洞察を共有し、またそれに基づいて行動する事が重要です。
最後に、ブランディング戦略も更新する必要があります。一度この種のデータが存在すれば、それが流出しないと考えることはできないからです。企業が舵を切らない場合、第三者が舵を切ることが増えてきています。
ビジネスを見通せるようになったことで、企業は新たな期待を抱くようになりました。それは、人々はリアルタイムにデータを見たいと思っているということです。
これは次世代のデータとの付き合い方が決まる瞬間です。企業は、「透明性の窓」を開くことで、このようなメリットを享受し、データをよりよく管理することができます。しかし、そのためには、データのライフサイクル全体を見渡し、収集対象データと収集方法を見直すことが不可欠です。現在のデータ管理方法で不足している課題を洗い出し、データの利用方法、アクセス権の設計、必要なビジネス機能などを再考する必要があります。
しかし、データだけでは十分ではありません。データの可用性がカギとなります。そこで重要になるのが通信技術です。データを転送する技術は飛躍的に向上しており、以前は接続されていなかった場所に、たとえそれが長距離であっても、ほぼリアルタイムで転送することができます。
データとコネクティビティによって透明性を高めることはできますが、 企業のビジネス変革の成功は保証されありません。根本的な問題は、企業内のデータがしばしばサイロ化されていることです。アクセンチュアの調査によると、回答者の56%がデータソース間の統合の欠如を最重要課題として挙げています。すでに大量のデータの取り扱いに苦労しているのであれば、今後さらに増大するデータ負荷に確実に耐え切れなくなります。
幸いなことに、データ・メッシュとデータ・ファブリックという2つの新たな戦略が、企業を刷新する可能性があります。それぞれユニークなメリットと違いがあるが、どちらもデータ・アーキテクチャを合理化し、サイロ化することができます。
企業は透明性を受け入れる方向に考え方を転換し、リスクの計算方法を見直し、データの価値について多面的に考える必要があります。
つまり、すべてのデータを常に共有しなければならないのでしょうか?いえ、データは責任を持って収集され、使用されなければなりません。しかし、企業は過度に保守的になる必要はありません。共有することで、企業の内部、お客様、そして一般社会にとって貴重な利益がもたらされ、その結果、ビジネスを回転させる歯車がより明確に見えるようになります。その明瞭さが問題や非効率性を浮き彫りにし、解決への道を開くのです。
透明性を高めることで、企業は既存のお客様との関係を活性化し、強化することができます。消費者にとって信頼性が最重要課題である今、透明性の価値はいくら強調してもしすぎることはありません。このような新たなデータ需要に正面から取り組むことで、お客様とのより良い信頼関係を築くことができます。お客様に関するデータは、長い間、企業にとって貴重なものでした。そして今こそ、お客様にとっても価値あるものにする時なのです。
業務効率化や顧客関係における変革、あるいは世界で最も困難な情報関連課題の解決など、あらゆるデータ関連の取り組みを行う企業にとって、成功の鍵は新しいデータに関するアプローチです。
「透明性の窓」は、それを開くかどうかにかかわらず、活用する機会が直ぐそこまで来ています。企業はこの瞬間をしっかり捉えて、変化するデータ・エコシステムを活用する方法を見つけることもできれば、反対にそれに抗って大きなチャンスを逃すこともできます。
今や誰もが、ビジネスや業界に関する深いインサイトを欲しています。もし、あなたがやらなかったとしても、他の誰かの手で必ず透明性がもたらされることになるでしょう。
OpenAIが2022年後半にChatGPTを公開したとき、複雑な質問をしたり、詩をリクエストしたり、人々はこぞってテストを実施した結果、望むものを正確に手に入れることができることが判りました。ビデオデッキの中からピーナッツバターサンドを取り出す方法を欽定訳聖書の文体で教えてもらうケースもありました。
ChatGPTが登場する以前、インターネット上にはAIが生成したアートがあふれていました。Stability AIのStable DiffusionやOpenAIのDALL-E 2のようなテキストに基づいた画像生成技術は、文字によるプロンプトに対して写実的な画像で応対するという点において人々を驚かせました。
こうして生み出されたコンテンツは、AI史上最大となる前進の軌跡でもあり、「顕著なタスク適応力を備えた学習済みモデル」の幕開けともなるものです。
それは2017年、グーグルの研究者たちによるAIモデル・アーキテクチャーの画期的な革新から始まりました。それ以来、テクノロジー企業と研究者たちは、モデルとデータセットの規模を拡張することで、AIの巨大化を目指してきました。その結果、「ファンデーションモデル」と呼ばれる強力な学習済みモデルが誕生し、学習させたドメイン内で非常に高い適応力を示し始めました。
ファンデーションモデルを採用することで、企業は多種多様なタスクや課題に対し、異なるアプローチができるようになりました。つまり、企業が独自のAIを構築するのではなく、AIを使用して何が作れるかを学ぶ、 というアプローチに軸足が移ったのです。
2020年に発表されたOpenAIのGPT-3は、当時、世界最大の言語モデルでした。GPT-3は、一度も訓練したことのないタスクを自ら学習し、そのタスクで訓練されたモデルを凌駕ました。それ以来、グーグル、マイクロソフト、メタなどの企業が独自の大規模言語モデルの作成に取り組んでいます。
この新しいクラスのAIを定義するために、スタンフォード人間中心人工知能研究所の研究者たちは"基盤モデル"という言葉を作り出しました。これらは一般的に、膨大なデータで訓練された大規模なAIモデルであり、下流のタスクに大きく適応できるものと彼らは考えています。
ファンデーションモデルを言語や画像だけでなく、より多くのデータモダリティに拡張しようとする動きもあります。例えばメタ社は、「タンパク質の言語」を学習するモデルを開発し、タンパク質構造予測を最大60倍高速化することに成功しました。
ファンデーションモデルの構築と実装を容易にするために、多くの取り組みが行われています。急速に増大するコンピュータの要件、この規模に対応するために必要な予算そして専門知識をもった人材不足が、今日の最大の障壁となっている。また、ファンデーションモデルが実装された後も、その下流のバリエーションを実行し、ホスティングするにはコストがかかります。
企業にとっての問題は、これらのAIモデルがその業界に影響を与えるかどうかではなく、どのように影響を与えるかです。
ファンデーションモデルは人間とAIの対話を一変させる可能性を秘めており、ChatGPTを「検索と知識検索の未来」と呼ぶ声もあります。ウェブ上に存在する何十億もの事例に基づいて訓練されているChatGPTは、詩や小説を書くことも、プログラムコードをデバッグ(プログラム内のバグを見つけて改修)することも、複雑な質問に答えることもできます。また、交わした会話をすべて記憶しているため、回答内容を修正したり、以前より詳しく説明することができ、人間と機械との対話を、より洗練された自然なものにします。
ファンデーションモデルはまた、以前は構築が困難であった、あるいは不可能であった新しいAIアプリケーションやサービスへの扉を開いています。学習データの不足は、ほとんどの組織にとって大きな問題です。しかし、事前に訓練されたファンデーションモデルであれば、この問題を回避する事ができる可能性があります。
マルチモーダルファンデーションモデルもまた、限界に挑戦しています。同モデルが、テキスト、音声、画像、映像、3D空間データ、センサーデータ、環境データなどを結びつけたら、何が実現できるようになるでしょうか?例えば、ある産業機器は、AIシステムを使って、何十ものセンサーから入手するデータ基に、整備士が機器を修理する際の手順を変更するかもしれません。
事前に訓練されたファンデーションモデルを構築した組織は、オープンソースのチャネル、あるいはAPIを経由した有料アクセスを通じてこうした世界を実現できます。
ファンデーションモデルを中心とした戦略を構築するためには、まずその最良のユースケースを理解する必要があります。AIアプリケーションの中には、まだファンデーションモデルが扱えない種類のデータを扱うモデルもあります。また、特定の目的のために訓練された狭義のAIの方が適している場合もあります。さらに、ファンデーションモデルのバイアスは、均質化と、その多くが大規模なオンライン・データセットで訓練されているという事実のために、一般的な懸念事項となっています。
自然言語が使いやすいインターフェースを提供しているとはいえ、ファンデーションモデルを使ったアプリケーションの構築を成功させるには、ある程度のソフトウェア工学の知識が必要です。しかし、そのようなスキルを持たない企業でも、このテクノロジーから恩恵を受けることはできます。OpenAIや他の企業がモデルをプラットフォーム化したことを受けて、新しいB2B製品やサービスを提供する企業が相次いでいます。
やがてAIのオペレーションは、モデルそのものの構築からモデルを上手く利用したアプリの構築へと移行していくでしょう。ファンデーションモデルをビジネスニーズに適応させ、アプリケーションに統合するスキルを備えた人材が、今後ますます重要になります。
やがてAIのオペレーションは、モデルそのものの構築からモデルを上手く利用したアプリの構築へと移行していくでしょう。
ファンデーションモデルの登場は、AIの歴史における最も大きな変化のうちの1つであり、誰も無視することはできないでしょう。すでに企業は、現在利用可能なモデルを使用して、新しいアプリケーションの開発や実証実験を行うことができる状況にあります。テクノロジーが進歩するにつれ、その機会は増え続けていくのです。
サイエンスとテクノロジーの関係は、双方向のフィードバックループであり、可能性の限界を押し広げ強力な効果を発揮することができます。しかし最近では、コンピュータの発展とともに、(デジタル)テクノロジーが主役となりました。テクノロジーがサイエンスにおける発見を加速させる一方で、企業は研究者や特定の業界の手にテクノロジーを委ねることに甘んじていました。第二次世界大戦後の数十年間、サイエンスとテクノロジーの共生関係が世界的なイノベーションを導いた教訓を、私たちは忘れてしまったのです。
それが今、変わり始めています。より多くの企業がイノベーションへの取り組みを拡大し、サイエンスとテクノロジーの融合がいかに破壊的であるかを目の当たりにしています。
テクノロジーの力は、ITやOTにとどまらず、新たなST(サイエンス・テクノロジー)領域へと拡大しつつあります。新たな技術の進歩は、材料やエネルギー、地球や宇宙、合成生物学などにおけるサイエンスの動きを促進し、企業が構築できるテクノロジーを一変させるでしょう。
今後、企業にとって、ソリューションの提供場所から製品の構成要素まで、すべてが一変する可能性があります。迅速なサイエンスとテクノロジーのフィードバックループに対する社会的な需要と重要度はこれまでになく高まっています。医療、サプライチェーン、気候変動など、世界はかつてないほど多様な課題に直面しており、より優れた、より迅速なソリューションが必要です。
今日の先進技術の多くは、サイエンスとテクノロジーの双方向フィードバックループを加速させる可能性を秘めています。このような発展を戦略的に利用することで、企業は今後数年間でビジネスを変革し、ひいては各業界の未来を変えることができるでしょう。
このサイクルが著しく加速している初期の領域は材料とエネルギー、地球と宇宙、そして合成生物学の3つです。
今後、企業にとって、ソリューションの提供場所から製品の構成要素まで、すべてが一変する可能性があります。
企業はこのサイエンスとテクノロジーの革命が及ぼす影響範囲を理解しなければ、競争力のあるイノベーション戦略と将来に向けた成長速度を維持できないというリスクがあります。フィードバックループの加速が新たなイノベーションの唯一の原動力にはならないでしょうが、それでもサイエンスとテクノロジーは誰にとっても無視できないほど大きなものになっています。
果たしてこれは企業にとってどれほど大きな問題なのでしょうか。パンデミック、気候変動、サプライチェーンなど世界経済にも影響の大きい重要な問題を例に考えてみましょう。もし企業としてそれほど大きく、深刻な問題として捉えていなかったとしても、今後数年間のうちに最大、かつ深刻な問題となり得ます。つまり、企業はサイエンス・テクノロジーとそれに伴う膨大なイノベーションの創出に対して興味を持ち、今のうちから取り組むべきなのです。
サイエンスの発展を加速するテクノロジー分野により多くの企業が投資することで、サイエンスの発展を利用しながら、これまで以上に迅速かつ効果的な新しいソリューションを生み出せるようになるでしょう。
サイエンス・テクノロジーの革命は「言うは易く行うは難し」ですが、すでに多くの新しいテクノロジーがサイエンス・テクノロジーのフィードバックループを加速させており、イノベーション創出に影響を与える変化が急速に進んでいます。
数年前のデジタル変革とは異なり、今回の変革は企業の成熟度によって大きく異なります。製薬企業や化学企業は、長年にわたってサイエンス主導のイノベーションを実践してきました。このような企業は、最前線でポジションを維持することができます。イノベーションをさらに加速させる新たなデジタル技術に投資し、サイエンス・テクノロジー革命がもたらす機会をチャンスを捉え、新たなビジネスにおけるパートナーシップを構築し、より良い関係を築きたいと考えるでしょう。
一方で、自社のビジネスにサイエンスが関係していると考えたこともない企業も存在するでしょう。そのような企業が成功するためには、3つの明確な行動をとる必要があります。まずは、コラボレーションが重要であることを認識することです。量子コンピューティングのような次世代テクノロジーは、高度かつ複雑であるのみならず、取得困難で需要の高いスキルを必要とします。そのため、企業は業界や部門を超えて、コンソーシアム(共同企業体)を通じた量子コンピューティング技術の取得をめざしています。
次に、実験を始める方法を見つけることです。幸いなことに、多くの先進的なテクノロジーやサイエンスのプラットフォームが誕生しているため、これは容易になってきています。
最後に、企業は合成生物学や量子コンピューティングのような、サイエンス・テクノロジー革命に伴うリスクを認識し、それに備えることです。
次世代コンピューティング、宇宙技術、バイオテクノロジーの進歩は、人類、企業、そして世界に、信じられないほどエキサイティングな時代の進歩をもたらすでしょう。実際に、世界がパンデミックや気候変動など前人未踏の課題に直面している今、コンプレスト・トランスフォーメーション(短期間での全社変革)と加速したサイエンス・テクノロジーサイクルに投資し、その可能性を完全に解き放つべきときです。この二つが両輪となって、進化を繰り返しながら相互に作用し合うことで創出される価値を企業は手に入れることができるでしょう。