変革の処方箋
ジム・ゴールデン、アン・キーファバー、ジョン・G・エデルブラット、
クリスティーナ・L・ギルバート
広報誌「アウトルック」日本語版 2011 October
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科学的根拠に基づく知見を基盤とした新たな情報のバリューチェーンが出現することで、米国ヘルスケア業界を構成する各プレーヤーの利害対立が収束するかもしれない。この変革の最終的な受益者となるのは患者だ。
以下の例を考察してみよう。
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心臓バイパスの手術を受けるアラバマ州モービルの住民の数は、コロラド州プエブロの住民で同じ手術を受ける人の数に比べ4.5倍。
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モンタナ州ミズーラの住民で乳房切除手術を受ける女性の数は、同じ施術を受けるサウスカロライナ州チャールストンの女性の3倍以上である。
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人工膝関節置換手術を受けるフロリダ州マイアミの住民の割合は、ネブラスカ州リンカーンの住民に比べ66%少ない。
これらの例はダートマス・アトラス・オブ・ヘルスケアが2005年のメディケア(高齢者向け医療保険制度)に関して行ったデータ分析の中に出てくるが、いかに米国では医療サービスの提供に一貫性がないかを如実に示している。
しかしこのようなばらつきは地域間だけにとどまらない。病院が変われば医師の診療方法も変わり、まさに千差万別だ。基本的には同じ治療を行っているのに2倍もの請求を行っている医師がいることも調査で分かっている。
このように大きなばらつきは、統計上の異常値という域を超えて医療制度全体のコスト増、効率低下、弱体化を招いている。こうした問題に対応しなければ、いくら医療制度を改革しようとしても無駄骨に終わってしまう。
医療業界関係者はこの制度全体に及ぶばらつきの問題を数十年前から認識していた。しかし、最近まで、簡単に分析できる形で十分な患者データが揃っていない、またデータがあってもそこから知見を引き出すための分析ツールが十分でないという状況があった。何千、場合によっては何百万人にも及ぶ患者が受けた治療に関する膨大なデータ、つまり医学的証拠を利用することができないので、医者は現在、自身が受けた教育、直観、経験、所属する病院の方針などを総動員して治療方針を決定することが多い。その結果、医療ミス、ベストプラクティスの活用が十分でない、コストに見合った医療行為の質の確保ができないという深刻な問題が起きている。
しかし、患者データのデジタル化が始まったことや、保険会社などの保険者からのデータ、患者からの情報、医師のネットワーク、臨床試験データなどの外部情報を統合し分析する能力が備わったことで、医師や病院、製薬会社、保険会社からなる医療業界はお互いの連携が容易になる共通の新たな道具を手に入れることができた。アクセンチュアでは、これを「アナリティクスを活用した科学的根拠に基づく知見」と呼んでいる(次頁の図表を参照)。
入手できるようになった新たな情報と、その活用に必要な、科学的根拠に基づく知見を引き出すツールが強力に組み合わさることで、またとない特別な機会が提供される。業界のステークホルダー(利害関係者)をつなぐヘルスケア関連情報のバリューチェーンを構築し、最終的にはこれを発展させて、ヘルスケア業界にも他の業界と同じような、共生型バリューチェーンを作ることも可能だ。
米国のヘルスケア業界は現在、生産者(製薬会社、医療機器メーカー)、保険者(保険会社、健康保険維持機構)、医療プロバイダー(病院、薬局、医師)、そして政府で成り立っているが、医療制度に関わるこれらの当事者の連携は、不安定かつ非効率的で、まったく機能していないケースもしばしば見受けられる。関係を難しくしているのは主に経済的な利害の対立で、各当事者はビジネス上の利益のために、それぞれの目的に特化した限定的なデータと分析を使用しており、すべての検証情報を標準化された枠組みの中で体系的・総合的に把握することはほとんどない。
実際、業界全体での共通データセットの活用については、協業のチャンスととらえるステークホルダーもいれば、自社のビジネス利益への脅威とみなすステークホルダーも存在する。ペンシルベニア大学ウォートン校経営大学院の調査によれば、ヘルスケア業界にはそもそもバリューチェーンというものが存在しておらず、つまり、関係者間の協調による取り組みも、広範な戦略的提携も、真の意味での知識共有もない状態だという。また、ばらばらに分裂した医療プロバイダーの状況を見る限り、最高の顧客価値を最小のコストで提供するという競争もほとんどない。その結果、保険者、医療プロバイダー、生産者の3者すべてが自らの利益の追求に走る状況が生まれ、患者の利益が二の次となることもしばしばある。
業界内のこうした異なる利害の調整機能を果たすのが、新たな情報バリューチェーンだ。その構築に当たっては、まずいくつかの大きなハードルを乗り越えなければならないが、業界共通の科学的根拠に基づく知見を活用できるようになれば、大きなメリットが期待できる。
ヘルスケアデータの分析から導き出される知見の活用が進めば、業界内のすべてのステークホルダーは、ある種、仮想的に統合され、それぞれ以下のような大きな恩恵を享受できるようになる。
筆者について
ジム・ゴールデン(Jim Golden)はアクセンチュアのチーフ・マネジメント・サイエンティストである。製薬会社、保険会社(保険者)、医療プロバイダー、官公庁のお客様向けのデータ分析戦略、プラットフォーム、サービス、ソリューションの開発を専門としている。最近手がけたプロジェクト領域では、ヘルスケア産業の研究開発部門における比較有効性研究および科学的知見に基づく治療や、製薬会社のマーケティング活動における医師のターゲティングおよび顧客生涯価値の評価などがある。同氏は米コネチカット州ハートフォードを拠点として活動している。
アン・キーファバー(Ann Kieffaber)はアクセンチュアの北米公共サービス・医療健康部門のマネイジング・ディレクターである。米国の保険会社、医療プロバイダー、官公庁の医療健康部門のお客様に、アナリティクスを活用した医療ケアの質の向上と実務管理を支援している。前職では、医療情報サービス会社のコンサルティングおよびサービス提供を担うためのグローバル機能の構築に尽力した。同氏はワシントンD.C.を拠点として活動している。
ジョン・G・エデルブラット(John G. Edelblut)はアクセンチュアの北米ヘルス・クライアント・サービス部門のマネイジング・ディレクターである。北米地域の保険会社、医療プロバイダー、公共部門の医療サービス業務の責任者を務めている。現職就任前は同社のグローバルヘルス・ライフサイエンス部門のマネイジング・ディレクターであった。1985年に入社以来、主に患者向けおよび医療プロバイダー向け医薬品業界のお客様への支援を担当してきた。同氏はフィラデルフィアを拠点として活動している。
クリスティーナ・L・ギルバート(Kristina L. Gilbert)はアクセンチュアのライフサイエンス戦略グループのシニア・エグゼクティブである。大手製薬会社、バイオテクノロジー分野のベンチャー企業、ライフサイエンス分野の新興企業に対する15年に及ぶコンサルティング経験を有し、様々な治療領域、製品ブランド、事業プロジェクトを率いてきた。同氏はフィラデルフィアを拠点として活動している。
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