あなたはそのアイデアに気づけるか
-ヒット商品を生むフレームワーク-
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経営コンサルティング本部 戦略グループ マネジャー
網野 知博(あみの・ともひろ)
「どのようにしたらヒット商品を生むことができるのか」。残念ながら確実にヒット商品を開発する手法は存在しないが、“気づき”を促すフレームワークを活用することによってヒットする確率を上げることは可能である。商品開発・マーケティングは深く広い領域であるが、本稿では商品開発プロセスの源流となる「アイデア発想」につながる“気づき”に的を絞って、その手法を解説する。
商品開発の源流はアイデア発想=気づき
「うちの商品開発部隊はろくな商品を作らない」
営業部隊ではよく聞かれる発言であろう。これは営業マンの約束事みたいなもので、実は、彼らは本気で商品を良くしたいわけではない。現に多くの企業では、競合と比べて悪くはない、ありふれた商品を開発していれば、何とか数字を確保できる時代がしばらく続いた。営業が強い会社では「うちの会社にマーケティングは必要ない」と豪語していた取締役もいたくらいだし、それで勝ち続けることができたのも事実である。会社の方向性は「商品開発部隊の強化」よりも「営業部隊の強化」に目が向き、実際に市場では「特徴がない、普通のありふれた商品」でも、営業の力で売れていた。
しかし「物が売れない時代」へ変わるのに伴い、経営者の意識も変わりつつある。最近では経営者やマーケティング担当役員の方々と話をすると「ヒット商品を生み出すことができるかが経営上の大きな課題だ」との発言をよく聞く。
皆さんも体感されていると思われるが、近年では新商品の開発スピードが速まり、世の中は新商品で溢れている。コンビニやスーパーの売り場である“棚”は限られているため、せっせと新商品を開発しても、売れなければ1カ月、早ければ1~2週間で売り場から撤去され、その代わりに競合商品が棚に並んでいく。それを取り返すためにまた新商品開発、他社のヒット商品が出ればそれに対抗すべくまた新商品開発。自社商品が売れたら売れたで競合企業が類似品を出してくるため、既存商品の改良やそれに続く新商品開発。この新商品開発の嵐はしばらく止みそうにない。
では、ヒット商品を開発していくにはどうすべきか。まずは商品開発・マーケティングのプロセスを紹介する(図表1)。

一般的な商品開発プロセスをご存じの方にはすでになじみ深いプロセスだと思われるが、通常のプロセスと異なる点は「商品コンセプト策定」において、「テーマ・アイデア検討」に注力することである、多くの企業において「商品コンセプト」の重要性は認識されており、確かに商品コンセプトの出来次第でヒットの確率が大きく変わる。その「商品コンセプトの良し悪し」は「アイデア発想の良し悪し」、すなわち“気づき”の筋の良し悪しに大きく依存する。
次に過去の経験則から、ヒット商品誕生までのプロセスをイメージ図にまとめる(図表2)。

各プロセスにおける満点は前プロセスに依存する傾向が強いため、アイデア発想でしっかりと満点近くまで考えておかないとその後の「商品コンセプト検討」「商品本体開発」「販売戦略策定」でどれだけ熟慮しても“切れのない”商品で終わることが多い。
まさにアイデア発想、気づきが商品開発で成功をするための秘訣とも言える。本来なら商品コンセプト策定の全プロセスに関して解説を行いたいが、本稿では「ヒット商品に繋がるアイデア発想」に的を絞って解説を行う(図表3)。

ヒット商品の多くはコロンブスの卵
経営者の嘆きの中でも特に多いのが「うちの社員からは独創的なアイデアが生まれなくて……」というものだ。しかし、ヒット商品には「独創的なアイデア」や「かつて存在しなかった技術的なイノベーション」が本当に必要なのか?ヒット商品を「各業界の目安となるヒット基準よりも売れて、かつ消費者にも認知されたもの」と定義すると、その多くは何らかの応用や改善であることが多い。売れるものを作る(≒消費者の心に刺さるものを作る)ことと、世の中に全くないものを作る(≒全く新しい技術イノベーションを提供する)ことは、別である。
ヒット商品を生み出す秘訣は、「誰も気づいていなかった潜在ニーズ(潜在的な問題)を満たす(解決する)こと」だと言われている。しかし、皆が気づいていた顕在ニーズでも、誰も満たしていなかったものを満たすことができればヒット商品になるし、誰かが問題を解決し始めていても、それ以上に良い解決策を示した商品ならば、後から参入してもヒットする可能性は十分にある。
「日経MJ」紙が発表しているヒット商品番付(2008年上期)を見てみよう。東の横綱:「プライベートブランド商品」、西の横綱:「糖質・糖類ゼロ」という多少地味な両横綱。消費者の「“品質が最低限維持されているもの”を“少しでも安く買いたい”」というニーズは昔から存在しているし、「好きなものを飲みたいが太りたくない」というニーズも古くからある。続く東の大関:「5万円ノートパソコン」、西の大関:「ブランド携帯」などを見ても、言われれば当たり前に思えるような、いわゆる「コロンブスの卵」的なものが多く、誰もが「自分でも気づくことができた」と感じるものが多いのではないだろうか。
世の中にいくつかあるヒット商品一覧を活用し、過去5年間のヒット商品(ブームの総称など、特定の物ではなくヒットの規模が算定できない商品やサービスを除いた68商品)を調査したところ、その多くが先に出ていた商品を応用、改良した後発商品であった。また「新たな需要を生み出して新市場を開拓する」商品は少なく、既存市場を狙い、「既存商品からリプレースしてシェアを奪う」商品が多いと言えよう(図表4)。

次に、この考え方に沿って「類似商品の有無」と「市場創出の有無」から、これらを4つの商品タイプに分類し、ヒットの数とヒットの規模で見てみる(図表5)。

新市場を開拓する商品は実に少なく、大半が既存市場(既存顧客)を対象としたもので、また半数近くが後発商品であることがわかる。「新市場を開拓」を狙い“特大ヒット”商品を生み出せば、得られるものは非常に大きいが、「より良いもの追求型」でも十分に“小・中ヒット”を出せるのだ。
事例を見ると「なんだ、自分でも小ヒットや中ヒット程度の商品アイデアなら、何とか考えつきそうだな」と感じるのではないか。実は、その“できるはず”という前向きな姿勢こそが面白いアイデアを創出するのに必要な意識であり、アイデア発想の第一歩になるのである。意識の準備ができたところでアイデア発想の手法を紹介する。
なお、経営層の方にはもう少し理解を深めていただきたい。今回の調査では、ヒットの継続期間(つまり、累計のヒット規模)が評価されていない。「より良いもの追求型」の中にはすぐに売上げランキングから消えていった商品や、その地位を維持するため競合との熾烈な販促合戦に見舞われている商品も多く存在していると思われる。すべてお手ごろのやり方でヒットを狙うのではなく、投資(金も時間も)は必要でもリターンが大きい新市場開拓などを組み合わせ、時間軸やヒットの規模なども視野に入れ、最適な商品ポートフォリオを組みながら、中期的な商品戦略を立案していく必要がある(これが図表1の「中長期商品戦略」にあたる)。
気づきの達人になれるアイデア発想のフレームワーク
人間は意外と自由に弱い。本来、アイデア発想は、「何でも自由に考えていいよ」と言われたほうが楽な気がするが、実はある程度“制約”があるほうが楽なことが多い。
あなたが、いきなり上司に「お菓子の新商品開発をするからアイデアを30個列挙して」と言われたらどうだろうか?急には思いつかなくても、アイデアを発想する、物事を考える“ベース”となるもの、例えば「このツールを使ってアイデアを出して」などの“制約”があるほうがむしろ生産性は上がるのではないか。
アイデア発想を手助けするフレームワーク、ツールは世の中に数多く存在するが、それらを使うだけでなく自分で作っていくことも可能だ。本稿では、その例をいくつか紹介するが、最終的にはフレームワークを使いながら自分に適したものを見つけ、カスタマイズし、応用することで自分の武器にしてほしい。
例えば、前節で記述したヒット商品の4つのタイプ分類(図表5)であるが、これをベースに新商品のアイデアを発想することも可能だ。先ほどのお菓子の新商品開発の例でアイデア発想を試してみよう。
- 「新規提案型」:普段お菓子を食べない人を取り込む新機能というテーマでアイデア出し。カロリーゼロではなく、食べればやせるお菓子、××病が治るお菓子など。
- 「転換再生型」:日本にまだないセグメントをテーマにアイデア出し。ペット向け、中高年男性、シニア男性など。おもに海外トレンドを見るとアイデアを得やすい。
- 「多方向への差別化型」:“太らない、カロリーゼロ系”などをテーマにアイデア出し。既存市場への不満やニーズを捉えると考えやすい。
- 「より良いもの追求型」:より食べてもらえるように王道の“味勝負”や“食べやすい(サイズ、容器)”などのテーマでアイデア出し。
菓子業界を全く知らなくても、まずはアイデアを生み出す手助けになるのではないか。最初は思いつきの「just an idea」でも、これをベースに、ヒントとなる情報を収集し、再度アイデアを発想し続けるサイクルを繰り返すことが「アイデア発想の手法」なのである(図表6)。

どうしたらそのアイデアに気づけたか?
「どのようにしたらあなたは『iPod』(アップル社)というアイデアに気づけていたか?」「どうしたらあなたは『Wii』(任天堂)というアイデアに気づけていたか?」「どうしたらあなたは『オシャレ魔女 ラブandベリー』(セガ)というアイデアに気づけていたか?」。ここで問いたいのは「それらがなぜヒットしたのか?」ではなく、「どうしたらそのヒット商品(のアイデア)に気づけたか?」である。
人によって発想の着眼点は異なると思うが、ある程度汎用的に「ヒット商品(のアイデア)に気づける」ように思考パターンの分類を行った(図表7)。

14パターンのうち5つは“パクリ”という分類に括られる。パクリ、つまりすでに存在するものの模倣からアイデアを発想するやり方である。例えば「パクリ・リセグメント」。少年向けに「甲虫王者ムシキング」(セガ)というトレーディングカードゲーム方式のアーケードゲームが流行っていると知っていれば、「同様に少女向けもヒットするのでは?」と考えて「オシャレ魔女 ラブandベリー」に気づくことができるであろう。
意外とユニークなのが「パクリ・リネーム」。水なしで飲める下痢止めとしては「ロペラマックサット」(佐藤製薬)が既に先行商品として販売されていたが、「ストッパ下痢止め」(ライオン)というキャッチーで商品名から一発で機能がわかる非常に訴求性のある名前で勝負してヒットした。機能は変わらなくても名前だけでヒット商品に変わるのだ。
「一点突破」と「ハイエンド」は違いが難しいかもしれないが、「一点突破」は“ある一面”だけは競合と比べて著しく差別化を図ったもの。「ハイエンド」は高価格ではあるが、高品質なもの。例で言えば、ものすごく辛いスナック菓子という「暴君ハバネロ」(東ハト)は「一点突破」、「こだわりおむすび」(セブン-イレブン・ジャパン)や「ザ・プレミアム・モルツ」(サントリー)などは「ハイエンド」である。これは分類学のツールではないので、「高機能で高価格な商品」「味で勝負しているが高価格な商品」などのアイデアが発想できれば、「ハイエンド」でも、「一点突破」でも、分類はどちらでも構わない。
競合と比べて低価格ではあるが、品質は保持しているという「低価格」は王道だが、盲点なのは、業務用などで普及している高機能な商品を廉価版で提供する「デチューン」。プラネタリウムは大規模な施設に行って見るというのが常識であったが、「ホームスター」(セガトイズ)では家庭用プラネタリウムというものを実現してヒットさせた。
再度確認すると、「実際のヒットメーカーたちがどのようにしてそのヒット商品に気づいたのか」を知るためのものではなく、「自分たちがどうやったらそのヒット商品に気づけたのか」を考えるために作ったツールが図表7のヒット商品の“思考パターン”である。当然いくつかのパターンを組み合わせて出てくるアイデアもあると思うが、このツールをアイデア発想のチェックリストとして活用することで新たなヒット商品のアイデアをたくさん発想してほしい。
では、実際にいくつかのケースを見てみよう。
「ハイエンド」より「デチューン」:富裕層向けビジネス
近年は富裕層ビジネスブームで、書店でも多くの関連本が平積みされているが、日本においてはまだ決定的なビジネスが立ち上がっていないようだ。一般的に富裕層ビジネスといえば「ハイエンド」だが、一緒に「デチューン」もあわせて発想するとネタが生まれやすい。
航空サービスで考えてみよう。欧米では既に一般的になったプライベートジェット(以下PJ)のチャーターによる利用。元F1レーサーのミハエル・シューマッハなどのセレブは自分でPJを所有していることも多いが、それができるのは本当に限られたお金持ち。しかし、もう少し下のクラスの富裕層にもPJを使いたいというニーズは存在し、「デチューン」であるPJレンタルというアイデアが生まれてくる。逆に、既存サービスの「ハイエンド」と捉えると、超豪華なスイートクラス(シンガポール航空の総2階建て航空機A380には個室がある!)に行き着く。
他の富裕層サービスを考えてみよう。既に欧米では富裕層ビジネスが立ち上がっており、参考になるものはいくつも存在する。「パクリ・輸入」により多くのヒントを得ることができるが、欧米の富裕層に比べて、日本の富裕層は資産額や収入など桁が1つ、2つ下がる傾向にある。日本の富裕層にカスタマイズして「デチューン」すると新たな事業機会がたくさん見えてくるはずだ。
アイデア発想の宝庫:ボールペン
コモディティ商品の象徴のように思われているボールペンだが、メーカー各社の努力が見て取れる。持ちやすさ、書きやすさを徹底的に追求した「一点突破」、機能を充実させた「ハイエンド」、最近ではボールペンで書いたものは消せないという不満を解消した「不満解消」など様々な商品が生まれている。
14の思考パターンだけではアイデアが足りない場合は、「逆張り」「視点をずらす」ことを意識すると発想しやすい。ボールペンは一般的に「部品点数が少なく安い」商品であるため、「逆張り」で部品点数が多く高価な商品なども面白い。あえて部品を細かく、部品点数を多くして「あなただけのために特別に精巧に作ったボールペンです」というメッセージと共に提供する「ハイエンド」が1つの案だ。機能を追加してハイエンド化させることもできるが、「消しゴム付き」はすでにあるし、「電卓付きのボールペン」は、少なくとも私は欲しいと思わない。必要とされない付加機能ほど“たちの悪い”ものはないのでご注意を。
先日、著名なデザイン家電の企画担当者に、「ボールペンの商品開発を頼まれたらどうするか?」と問いかけてみた。私が想像していた回答は、デザイン家電と同様に、デザイン重視の「一点突破」か、高級素材を利用した「ハイエンド」などであったが、見事期待を裏切られた。答えは「セット売り」。「開発するボールペンが最も引き立つようなシステム手帳やバインダーなどもあわせて作り、セットで売ってしまえばよい」であった。
セット売りを考えるときに、自分の会社は「××屋」だから、というメンタルブロックが働いたらその時点でアウト。「“ボールペン屋”は手帳など作らない」、と思ったら新たなアイデアは生まれない。
別の「専用」はないのか?:缶コーヒー
セット売りの流れでもう1つ紹介すると、「××専用」を「セット売り」と同じ考え方で用いることもできる。朝専用缶コーヒー「ワンダ モ一二ングショット」(アサヒ飲料)というヒット商品がある。“朝専用”とセグメントを切ったことによる勝利だが、それに加えてビジネスパーソンが朝に缶コーヒーと一緒に食べる商品をセットで売れないか?最近は朝食の必要性が訴えられているためか、私の周囲でも若手コンサルタントがコンビニで缶コーヒーと一緒にサンドイッチを購入して食べている姿を見かける。「缶コーヒー×××専用サンドイッチ」を飲料メーカーとコンビニが共同開発して自社缶コーヒーを囲い込むことはできないか?
また、私の周囲の喫煙者を見ていると、タバコを吸うときに缶コーヒーを飲む人が多いようだ。ならば、いっそ“一服”が旨くなる「いっぷく休憩専用コーヒー」などを出したらどうか?(個人的には、タバコも飲料も出しているJTに取り組んでいただきたいテーマである)。最初は他愛ないアイデアでもこのようにどんどん出し続けてほしい。
業務にもアイデア発想:人材派遣
これまでは商品・サービスの話を中心に進めてきたが、このアイデア発想法は「ビジネスモデル」や「業務のやり方」などにも応用が利く。人材派遣業のX社を例にとってみよう。
数年前に人材派遣業界で破竹の成長を続けた企業が存在した。彼らはどのようなヒット商品を出したのか?答えから言うと、“営業の仕組み”で「一点突破」をしたのである。
人材派遣会社にとっての商品は“人”であるが、一方で、派遣の仕事を探している人は複数の派遣会社に登録するのが一般的だ。そうすると、結果的に各社に登録されている人は同じであり、商品としての差別性がないことになってしまう。しかし、当初、人材派遣大手各社は「良質な人材を抱えている」ことをアピールして営業をしていた。
一方で、派遣社員を採用する企業のニーズは、「早急に人員確保ができること」であった。あらかじめ1カ月前から要員計画を立てる、などという企業はほとんど存在せず、多くの企業では「明日からお願い」「来週頭から来てほしい」など急なリクエストが常であった。そのため担当者は、現在取引のある派遣会社に電話をかけるか、名刺がたまたま手元にある派遣会社に電話をかけることが多く、わざわざ連絡先を調べて「各社に見積もりをお願いする」ことはあまりなかった。
そこでX社は、営業スタッフに高度な提案スキルを求めず、「定期的に、しかも高頻度で担当者を訪問して名刺を置いてくる」ことだけに専念した。“担当者が派遣社員を必要と思ったその瞬間に、手元に名刺がある状態にしておくこと”にこだわる「一点突破」。
この例は、一般的には事業戦略として捉えるべきだが、ビジネスや業務でもヒット商品と同様に、アイデアを発想することによって、「売れる仕組み」を作ることができる好例として紹介した。
実はこの例を紹介したのにはもう1つ理由がある。この例が「パクリ・応用」に活用できるからだ。自業界にどっぷりと浸かっていると、当たり前のことに気づかないことが多い。最近は、高度な提案営業やコンサルティング営業が必要と謳われ、多くの企業で「営業の高度化」(つまり「ハイエンド」)というテーマで様々な改善活動を行っている。しかし、顧客側のニーズを見ると、「高度化」よりは「シンプルでスピード勝負」を仕掛けるべき業界も多い。「一点突破」は業務のやり方においても有効な発想法である。
実は、アイデアの発想法やチェックリストは世に多く存在(学術的には200以上ともいわれている)し、私が使っているものの中には、それらを適宜参考にしているものがある。詳細な活用方法や例は省くが、図表8として示したチェックリストは「抜け漏れを防いでとにかくアイデアの数を出す」ときに有効なので、参考までに紹介する。

アイデア発想力=“気づき”力を高めるコツ
アイデア発想のプロセスは理解いただけたと思うが、慣れるまでには試行錯誤が必要だ。アイデア発想のフレームワークを活用し続けていくために、前提として知っておいたほうがよいもの、より発想しやすくなる取り組み例などを紹介する。
何はともあれ仮説思考
「顧客の声を聞け」。古今問わず有効な手法であるが、近年ではいきなり“声”を聞いても求める答えは出てこない。確かに顧客調査手法は進化しており、顧客インサイトを探りやすくなっているが、仮説なくしていきなり顧客調査を実施しても、望んだ結果は得られない。最近はブログやフリー百科事典『Wikipedia』などによる情報量の増加、そしてインターネット検索エンジンによる検索技術の向上により、消費者の情報の同質化が進み、同じような意見しか出てこないことが多い。また、グループインタビュー慣れした消費者も増加している。意図的にメーカー側が喜ぶ好意的な意見や、優等生的な意見を発言し、担当者を喜ばせてくれるが、本音ではないため、その後のアイデア創出にはあまり役に立たないことも多い。
図表6で示したとおり、まずは粗くてもよいのでアイデア発想で仮説を立案し、顧客の声を聞きながら検証し、再度アイデアをブラッシュアップするプロセスを実践してほしい。
4Pの制約を無視する
アイデア発想の際には「制約」があるほうが考えやすいと書いたが、マーケティング4P(Product、Price、Place、Promotion)に関しては、完全に制約をかけないでほしい。
Product:(ケースでも触れたが)“うちの会社は××屋だから”という考え。「セット売り」「Co-ブランド」など、アイデア発想の際には業種の壁を取り払ってアイデアを発想してほしい。アパレル企業でも、車メーカーとコラボレーションして「セット売り」も全くないわけではない。
Price:既存商品の価格帯にこだわる企業が多い。「自分の会社は数百円の消費財を作るメーカーだから数万円の高額品は無理」といった固定観念で制約をかけてしまうケースだ。ユニクロでも2000~3000円の商品だけではなく、カシミヤ商品などでは1万円近くするものもある。「絶対額が高いか、安いか」ではなく、商品カテゴリ内での「相対価格」に注目してほしい。「低価格」「デチューン」のパターンに一貫性があれば、高額商品を取り扱っても企業文化が混乱することもないはずだ。
Place:チャネルの制約も、アイデア発想の際は無視してほしい。チャネルとセットになることで生まれる新商品のアイデアもある。「ウェブなどのダイレクトチャネルは無理」「デパートに売るのは無理」「コンビニやスーパーとは付き合えない」などチャネルの制約を考えずにアイデアを発想したい。
管理による制約
自分自身を管理するために、制約を与える手段もある(意志が弱い人向け)。
時間管理型:文字通り、考える時間を先に決めてしまうやり方。例えば「1時間考える」と決めたら、ひたすら1時間考える。時間を延長することも禁止にして、ひたすら時間と戦いながら、とにかく1時間考え抜いてアイデアを列挙していく。
結果管理型:もう1つは、出すアイデアの数を決めてしまうやり方。「10個アイデアを考える」と決めたらとにかく10個出す。
結果管理型でも、ある程度は時間を決めたほうが望ましい。私は「30分間で10個」など両者をあわせた「ハイブリッド型」で自分に制約をつけてアイデア発想を行っている。
場所は「会議室」でも、「トイレ」でも、「外出して散歩しながら」でも構わないが、自分でアイデアが発想しやすい環境を見つけてほしい。ただ、「気分が乗ったら発想する」という逃げ道を作るやり方は避けて、時間でも結果でもよいので制約を設けてアイデアを発想する訓練をしてほしい。
とにかく数をこなす
管理による制約を用いる利点は、結果的に数をこなすことにある。とにかく慣れないうちは数をこなしていくしかない。我々コンサルタントも、新人時代は数百枚のスライドを書いても、最終報告書に採用されるスライドは数枚程度しかない。
同様に、有名なデザイナーから聞いた話がある。「若い頃に何千枚と描いてきたから、今は1枚のデザイン画を仕上げるために1枚だけ描けばすむようになっている。若い頃には完成品1枚を仕上げるのに、毎回1000枚は描いた」。
ヒット商品は、1000の商品から3つくらいしかヒットが出ないとされ、よく「千三つ」と言われている。ヒット商品の源流となるアイデアならなおさら数千、数万と考えておく必要がある。1万のアイデアから1つのヒット商品。最初は、とにもかくにも考え続ける。
ヒットの確率を上げるには、とにかく良質なアイデアを量産することが望まれる。本稿で紹介したツールが読者の皆さんの今後のアイデア発想の一助となれば幸いである。
出典:東洋経済新報社発刊「Think! 2008年秋号27号」記事
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