増加の一途を辿るCSO (最高戦略責任者)
ティム・ブリーン、ポール・F・ヌネシュ、ウォルター・E・シル
広報誌「アウトルック」日本語版 2008 June
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競争を勝ち抜く上で、力強い組織作りが重要な1要素であることを、ハイパフォーマンス企業は充分に理解している。組織作りは、まず戦略目的を迅速に達成できる経営陣から着手する必要があるが、近年、経営陣の一員としてCSO(最高戦略責任者)を加える企業がますます増えている。
組織設計に対して関心が強い経営者は少ない。なぜならば、組織といえば、ボックスの間に矢印や点線が描かれた複雑な組織図で示され、そこには生身の人間であるリーダーの具体像が見えてこないからである。
しかし、最近のアクセンチュアの調査によると、組織戦略に競争優位を求める企業が増加しており、特にCレベルの執行役員を再編成していることが明らかになっている(「調査について」参照)。特に、私たちの調査レポート“The Chief Strategy Officer”(ハーバード・ビジネス・レビュー(2008年4月号に掲載)でも述べたが、戦略を担当する役員(最高戦略責任者、または単にCSOと呼ばれることもある)を経営陣に加える企業が増加している。
ハイパフォーマンス企業の3要素の1つである『マーケット・フォーカスとポジショニング』の実現には、組織戦略が非常に重要な役割を占める。特に、『策定した戦略を円滑に遂行することに責任を持つ経営幹部』であるCSOを置くことが、競争優位性の構築に繋がるといった、CSO設置の意義を充分に理解すべきである。
なぜCSOか
企業は様々な理由で経営陣にCSOを加えるようになってきている。
まず、CEOがサポートを必要としていることが大きな理由であろう。
複雑化する組織、急速なグローバル化、新規制、イノベーションを生み出す取り組みなど、経営課題が山積しており、仮に戦略の執行を担うCEOにとって重要な事項であっても、CEOが全てを把握することはますます困難な状況になりつつある。
さらに、過去10年ほどの間に戦略そのものが変化したことが挙げられる。戦略策定は継続的なプロセスとなり、戦略遂行を成功させるためには、迅速かつ的確な意思決定がますます重要になってきている。もう1つには、独自路線を主張する経営幹部が自分の利益と関心に基づいて勝手に戦略を策定した場合、戦略遂行の集中管理が機能しなくなるという理由もある。
「CSOは、かつて最高経営責任者が単独で担っていた企業全体にかかわる問題に対応することが多くなっている。」
こうした状況の中で、かつてはCEOが取り組むべきテーマであった全社的な課題にまで、CSOが対応することが多くなっている。キンバリークラークのCSOであるロバート・ブラックは、サモンズ・エンタープライジズ(総資産270億ドル以上の複合企業)のCOO(最高執行責任者)や、世界的オフィス家具企業スチールケースの国際部門の代表等を務めた経験の持ち主であるが、自分の役割についてこう述べている。「私は1週間でコンシューマー・イノベーション、ビジネス・プロセス・アウトソーシング、財務構造、製品サプライチェーン、国際展開、コミュニケーション、買収等といった多岐にわたる経営課題に対応しています。しかし多くの人のキャリアは職能別に形成されているため、同時にこのような複数の課題に対応できる人は少ないでしょう」
実際、ブラックは、業種、企業文化、地域の異なる様々な企業で、数々の要職を経験している。従って、CSOとして成功するためには、多岐にわたる業務に精通し、個々について深い理解を持つことが求められると言える。
このように、“最高戦略責任者”という特別なポジションに加えて、豊かなビジネス経験があるからこそ、CSOは他の経営幹部が躊躇したり、もしくは回避したがるような経営課題について問題提起を行うと同時に、新たな指針を示すことができるのである。キンバリークラークのCFOであるマーク・バトマンが言うように、CSOは多くの場合、「厄介な話を切り出す」適任者である。他の誰もが触れたがらない問題を敢えて俎上に載せることがCSOの重要な仕事の1つであるから、CSOがいれば、重要であるにもかかわらず、これまで話題にできなかった経営課題が検討され、その結果、合意や実行に至るプロセスが明確化されるのである。また同時に、CSOは事業機会を逃さないために、戦略的に重要な取り組みが滞りなく推進され、適切な市場に資源を集中させているかをモニタリングすることも求められている。
CSOの起用を発表する企業はここ数年、着実に増え続けているが、その肩書が実際に何を意味するかは企業によって異なる。CSOといってもアクセンチュアの考えるCSOとは違う場合もあるし、逆に肩書がなくてもCSOの役割を果たしている経営幹部が存在する場合もある。
CSOの肩書があっても単なる昔ながらの「戦略立案者」であり、執行権限に制約を受けている場合もあれば、「経営企画担当バイス・プレジデント」のように比較的控えめな肩書を持った役員が、アクセンチュアが定義するようなハイレベルなCSOの役割を担っている場合もある。また、既存のCレベルの経営幹部が、同時に「バイス・プレジデント」などの肩書を与えられて戦略遂行の責任者となっているケースもよく見受けられる。
たとえば、サリー・クローチェックは2007年3月にシティのグローバル・ウェルス・マネジメント・グループのCEOになるまで、シティグループのCFOと戦略遂行責任者を兼務していた。シェーン・ロビソンはヒューレット・パッカードでシニア・バイス・プレジデントと最高戦略・技術責任者を兼務している。また、ダグラス・スガロは小売薬局チェーンと薬剤給付管理事業を展開するCVSケアマーク・コーポレーションの戦略担当シニア・バイス・プレジデントと最高法務責任者を兼務している。
今後もCSOに対する期待は変化すると思われ、担うべき役割と肩書きは、未だ明確な定義はされていない。
もたらされるメリット
企業が経営陣の質を競争の差別化要因として重視する傾向が強まる中で、その経営チームをどう設計し、構築するかを全く新しい視点で考えることが必要になってきている。それは世間の流行に流されて、真に企業価値をもたらすかどうか分からない役職を加えることではない。言うまでもなく、CSOはこの範疇に入るものではない。私たちはCSOを設けた企業が得ている各種のメリット短期、中期、長期的なメリットに着目した。その結果、これらの取り組みは、経営陣の再構築にかかる投資として捉えると、充分に見合うものであった。
まず短期的なメリットであるが、CSOは役職に就いたその日から、重要案件に即答してくれる知恵袋として機能する。AIGグループのCSOであるブライアン・シュライバーは、CSOの任務を引き受ける際に、「新たなビジネスチャンスが到来した時、まず私にその話が持ち込まれる、そういうCSOとして働こうと決めました」と語った。最初に話を聞く立場にあることで、彼は、意思決定に必要となるメンバーを自ら選定することができるのである。また、意思決定が採算に見合うか、といった財務的な合理性だけでなく、戦略的な意図に合致しているかについても検討することができるようになるのである。(というのも、しばしば戦略と財務は事業を進める上で、相克する要因となる場合が少なからず存在するため、非常に大きなメリットとなるのである)
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しかしながら、戦略的ジレンマを抱えた経営幹部が話を持ち込んで来るのを待っているだけがCSOの仕事ではない。対応する時間がなく苦悩する事業部長をサポートして戦略上の問題に積極的に関与し、解決の道を切り開くのもCSOの仕事である。
CSOの中期的な任務は、社内に世界クラスの戦略開発・遂行ケイパビリティを構築することである。実際に、多くのCSOはそのための部署を新設し、ビジネス開発、競合分析、M&Aなど戦略関連のスキルと資質を持った人材を登用して、自社が優位に立てるようにしている。また、構築した戦略を実現するためのケイパビリティが活用され、組織全体に組み込まれるようにするのもCSOの仕事である。
「戦略の最高責任者を置くことは、経営者の交代を円滑にする有効な手段となる。」
特殊化学会社であるH.B.フーラーが同社初のCSOを採用した際、CSO設置の理由として、同社が戦略策定、ビジネス開発、プロセス改善、ITが果たす重要な役割を認識していること、並びにCSOを通じてこれらの機能を相互に連携させる必要があることを強調した。また、米国の医療保険会社であるウェルポイントがマージョリー・ドールをCSOに任命した際、同社のCEOはプレスリリースにおいて、ドール新CSOの役割は「個別の事業部門と協働するだけはなく、全事業部門横断的な取り組みについて、定量的な目標を提示した上で、計画を策定すると共に推進することが求められる」と述べた。
長期的には、CSOを置くことは、経営者の交代を円滑にする有効な手段となる。キャドバリー・シュウェップスのトッド・スティッツァーは、1997年から2003年の短期間に、傘下のドクターペッパー/セブンアップ社のCEOから同社のCSO、CEO代理を経て、CEOになった。また、ペプシコのCEOであるインドラ・ノーイはABBとモトローラで企業戦略の責任者を務めた後、1994年にペプシコの企業戦略・開発担当のシニア・バイス・プレジデントの職に就いた。その後、2001年に社長兼CFOとなり、2006年にはCEOとなった。エクゼクティブサーチ会社ハイドリック・アンド・ストラグルズのマネージング・パートナー、クリシュナン・ラジャゴパランは、「CSOを引き受けるのは、その人が、いずれ企業全体の経営を担いたい気持ちを持っているからです」と語っている。
CSOとしての条件
CSOを導入することのメリットが明白であっても、実際に採用するとなると簡単ではない。戦略を策定し、それを社内の様々な機能や事業部門に携わる人のレベルまで落とし込み、組織変革を主導することができるスキルと経験を備えた人物、というのはなかなか難しい注文である。エクゼクティブサーチ会社は、社内、社外を問わず適任者を探し当てるまでには、CEOが考える以上に長い時間がかかることを明らかにしている。これは成長や革新を迅速に推し進めたいCEOにとっては頭痛の種である。
CSOが成功を収めるために最も欠かせないものは、おそらくCEOとの強固な関係であろう。CSOは全社的な課題に取り組み、新しいビジネス機会を捉えるために幅広い権限を与えられることが多いので、CSOとCEOの間には深い信頼関係が必要になる。長い仕事上の付き合いに加えて個人的な付き合いがあることは、必ずしも必須ではないが、あるに越したことはない。
「CSOは、業界に関する深い知識と組織内の人脈を活用して、社内のコミュニケーションを円滑化する能力に秀でている。」
私たちの調査の結果、実際に多くのCSOがCEOと長きにわたって関係を築いていることが分かった。その1つの理由は、貴重なスキルと経験を兼ね備えていることの多いCSOをCEOが手放したがらないからである。調査に応じたCSOたちは、その役職に就く以前に平均して5年以上、CEOと付き合いがある人々だった。
あるCSOは、現在の医療マネジメント会社に加わるまでの7年間に、同社のCEOと自分は別の3つの企業で一緒に仕事をしたことがあると語った。そのCEOは戦略部門の責任者を半年間探したが適任者が見つからず、以前から知る同僚に白羽の矢を立てた。旧友に「責任は大きいが、事業部の長でいるよりも大きな仕事ができるぞ。私も、君なら安心してCSOを任せられる」と言われ、彼は要請に応じた。
CEOとの密接な関係に加えて、CSOは以下の要件を充たしていることが望ましい。
- マルチタスクのエキスパート
アクセンチュアの調査は、CSOが平均10種類の主要業務や取り組みを担当し、M&Aから競合分析、市場調査、長期計画に至るまで様々な分野の責任を担っていることを示している。CSOは切り替えの早い人でなければならない。
- オールラウンド・プレイヤー
調査に回答したCSOの殆どが、技術マネジメント、マーケティング、オペレーションなどの職務経験や、ライン・マネジメントの経験を有しており、CSOになる前の主要職務が戦略策定であったと答えたのは全体の5分の1以下であった。
- スタープレイヤー
殆どのC SOがキャリア・パスの初期段階で優秀な業務実績を上げており、戦略責任者の役割を、キャリアの到達点ではなく、次のステップへの足掛かりと見做している。
- 考えるだけでなく、行動する人
CSOの多くは戦略の策定と遂行にほぼ同程度の時間を費やすと思われるが、どちらかといえば後者にウェイトを置くべきである。
- 中期的課題の監督役
経営陣は通常、短期的課題と長期的課題の把握はできているが、1年以上4年未満の中期的課題になると、対応が不充分なまま時間が経過してしまう場合がある。CSOは組織に働きかけ戦略遂行の重要段階である中期的課題にフォーカスするよう促す必要がある。
- インフルエンサー
権限を振りかざすCSOは成功できない。用いるべきは権限ではなく、業界に関する深い知識と組織内の人脈、そしてコミュニケーション能力である。
- 不確実性の受容
今日の経営者は誰もがこの資質を備えていなければならないが、特に結果が出るまでに何年もかかることが多いCSOはなおさらである。CSOの役割は急速に変化しており、不確実な未来を積極的に受け入れる心構えが要求される。
- 客観性
広範な権限が付与されているCSOに、依怙贔屓は許されない。派閥を意識した態度を公然と示すCSOや、感情的・個性的過ぎるために物事の本質が見えなくなってしまうCSOは必ず失敗する。
トップ・マネジメントの能力拡充
これらの資質と幅広い経験を持ち合わせる経営幹部を見つけるのは容易ではないが、それでもCSO候補を熱心に探し求める企業が増えている。ハイパフォーマンスを追求する企業にとって、経験豊かで熱意に溢れたCSOを迎え入れることは、プロスポーツチームが他チームの実績あるトップ・プレイヤーと新たに契約するようなもので、これによって競争相手に勝利する可能性は確実に高まる。
あるCレベルの経営幹部は、CSOが加わったことについて、「私たちが獲得した新たな才能は、当社でも最大の事業を切り回している経営幹部と比べてみても、決して引けを取るものではありません。しかも、その大きな才能が今まで活用されたことのない領域で発揮されているのです」と語っている。ハイドリック・アンド・ストラグルズのクリシュナン・ラジャゴパランは組織におけるCSOの価値についてこう述べる。「戦略は、どの企業にも既にあります。CEOが求めているのは、そのような戦略遂行を側面的にサポートをしてくれる人材であり、単に戦略を策定するだけの存在では不充分なのです」
そのようなCSOの獲得にあたっては、社会的にも政治的にも経験豊かで、多様な状況に迅速かつ効果的に対応できる社内の人材を登用する場合と、企業を成長に導く斬新な発想を持つ外部の人材を経営陣に加える場合とがある。いずれにしてもCEOは、信頼できる戦略の専門家を経営陣の一員として招聘する価値を認識しており、CSOを起用することにより、戦略の策定から遂行に至る一連のプロセスにおいて、企業全体を引き締める役割を担ってもらうことを期待している。
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筆者について
ティム・ブリーンは、アクセンチュアのCSO(最高戦略責任者)兼CDO(最高開発責任者)で、1995年の入社以来、アクセンチュアのビジネスコンサルティングにおけるグループ最高責任者、アクセンチュア戦略グループのマネージング・パートナー、グローバル・サービスラインのマネージング・パートナーをはじめ、様々な要職を歴任している。アクセンチュア経営幹部委員会のメンバーでもある同氏は、マサチューセッツ州ボストンを拠点に活動している。
ポール・F・ヌネシュは、アクセンチュア・ハイパフォーマンス・ビジネス研究所の上級研究員として、ビジネス戦略およびマーケティング戦略の研究を主導している。「Selling to the Moneyed Masses(2004年7-8月号)」、「The CustomerHas Escaped(2003年11月号)」など、同氏の記事はハーバード・ビジネス・レビューに定期的に掲載されている。直近の著書は「Mass Affluence: Seven New Rules of Marketing to Today’sConsumers」(Harvard Business SchoolPress, 2004)。アウトルックのシニア寄稿・編集者でもある同氏は、ボストンを拠点に活動している。
ウォルター・E・シルは、アクセンチュアの経営コンサルティング部門のマネージング・ディレクターで、前職はアクセンチュアの戦略サービスラインのマネージング・ディレクターであった。同氏は20年以上にわたって、様々な業界のフォーチュン1000の企業や大手プライベート・エクイティ企業などに対し、組織設計・構造転換、戦略策定、M&A、チェンジ・マネジメント、コーポレート・ガバナンスなど、幅広い分野でサービスを提供してきた。同氏はワシントンを拠点に活動している。
ダニエル・T・ロンドンはアクセンチュア財務・経営管理グループのマネージング・ディレクターで、アトランタを拠点に活動している。多くの地域と業界において、戦略、ビジネス・アーキテクチャ、システム・インテグレーション、ビジネス・トランスフォーメーション、アウトソーシング分野の豊富な経験を有する。
エリック・M・ローウィットはアクセンチュア・ハイパフォーマンス・ビジネス研究所の研究員で、マサチューセッツ州ボストンを拠点に活動している。
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<補足記事1>
調査について
アクセンチュアは2006年12月から2007年2月にかけて、戦略担当経営幹部約200名を対象とした調査を行った。100件以上のCSOの選任に関するプレスリリースやメディア報道を分析し、CSOの役割がどのように変化しているかを研究し、調査をより完全なものとするため、業種や経歴の異なる様々なCSOへのインタビューも実施した。
ビジネス紙に報道された記事を調べたところ、1979年にコロニアル・ペン生命とミード(現ミード・ウェストヴァコ)社がはじめてCSO選任を発表して以来、1996年までの大企業によるCSO選任の発表は5件のみであった。
1997年から2002年にかけては、39件のCSO就任に関する発表がビジネス紙に掲載され、2001年の14件が最高であった。(2001年に急激に増加したのは、企業がドットコム崩壊とグローバル化の進展に対応する必要性が高まったためと考えられる)これ以降、CSO就任の発表数は確実に増加しており、2003年は8件、2006年には21件に上昇している。
また、アクセンチュアは2007年の2月と3月に、最高財務責任者が企業の戦略的経営の中で果たしている役割をより正確に理解する目的で、CFOを対象とした関連調査も実施した。
<補足記事2>
CSOとCFO: 両者の創造的緊張関係
ダニエル・T・ロンドン、エリック・M・ローウィット
CFO(最高財務責任者)が企業戦略の上で果たす役割は、日々重要性を増している。しかしながら、最高戦略責任者を起用する企業が増えるにつれて、CFOとCSOの間で権限争いと責任範囲をめぐる対立が激化することが予想される。緊張関係が発生するのは戦略に対する捉え方であろう。CSOは、戦略はあくまでも短・中期的観点に立って遂行するべきと考えるのに対し、CFOは、短期と中期との境目を明確化することに拘るため、両者の間に相克が生まれる。アクセンチュアの調査では、両者とも協調の重要性を充分認識してはいるが、その一方で、経営幹部があまりにスムーズに経営方針を決定してしまうことに対しては、両者とも建設的でないという不満を抱いていることが分かった。
CFOの役割がどう変化しているかについて理解を深めるために、アクセンチュアは世界のトップ企業30社のCFOを対象に調査し、個別インタビューを行い詳細な情報を得た。戦略分野でのCFOの活動については、以前の調査と変わらぬ結果が得られたが、彼らがCSOとの関係について今回述べた内容は注目に値する。
調査結果から、戦略策定と遂行においてCFOの役割の重要性が高まっていることが確認できた。回答者の50%が、5年前の自身の役割は「役務を提供する」ことだったと述べたが、現在もそのように考えているCFOは6%に過ぎず、44%の回答者が「ビジネスパートナー」としての役割が主体だと述べている。90%近くは、今後の5年間で「ビジネスパートナー」としての役割が主体になると予想している。また、83%は戦略策定に携わったことがある、または密接に携わったと回答し、95%が戦略遂行にかかわったことがある、または責任ある立場でかかわったと答えている。
この調査の後行われた個別インタビューで、この調査結果がCFOの単なる願望を表しているわけでないことが分かった。私たちは様々な業種のCFOに会ったが、誰もが企業の戦略ビジョンの推進に貢献していた。たとえば、オランダの大手出版社であるウォルターズ・クルワーの事業部でCFOを務めるダグ・インターローズは、同社の戦略担当責任者やビジネス開発グループと密接に協力して、戦略ビジョンの実現に努めている。キンバリークラークのCFO、マーク・バトマンはCSOのロバート・ブラックと連日、共に経営戦略と革新に取り組んでいる。また、欧州の化学会社のある子会社では、財務の最高責任者が戦略部門およびマーケティング部門の最高責任者たちと共同で、同社の5ヵ年戦略を策定している。
これらの取り組みが成功するための鍵は、CFOとCSOの密接な連携である。このことは双方ともよく承知しており、回答したCFOの4分の3以上は、CSOとの連携が自己の業務遂行に不可欠であると認めていた。また、CSOを対象とした別の調査では、回答者の半分以上が、自己の業務遂行においてCFO以上に重要な存在と見做し得るのは最高経営責任者のみであると答えている。この事実は、CFOの86%が少なくとも週に1回、41%が週に数回CSOと連携するという調査結果と一致する。
もちろん、このような密接な関係にも摩擦は生じる。CFOとCSOは緊密に連携している関係上、否応なく、戦略の方向性や優先順位の議論で意見の相違が生じる場合がある。最も摩擦が起こりやすいのは、CFOの領域である予算等の短期的活動が、CSOの領域である戦略策定等の中期的活動と交差する場面である。
フォーチュン500に名を連ねるある企業のCFOは、状況を次のように説明している。「私の担当は今後18ヵ月間、CSOの担当はその後の18ヵ月後から5年後までの期間です。この2つを合わせて考えなければならないのです。長期的投資をしたくても短期的には不可能な場合がありますし、短期的に取り組みたいことが長期的視点からは有効でない場合があります。ですから、双方にとっても実りある連携でした」
このような学習体験には、当然不快な側面もある。あるCFOは、CSOがかかわることでフラストレーションを感じている同僚もいると話してくれた。財務担当者のように細かい数字を出してくれないからだという。しかし、CFOとCSOとの関係にかかわる指摘としては、次のCFOの言葉が一般的であろう「当社のCSOはいくつものグローバル企業を経営した経験があるので、何か問題が発生する度に私と連携し、『お互いどうしたらうまく協力できるか』、『あなたは何ができるか』、『私に何ができるか』、『何を一緒にやるか』等の議論を行いながら問題解決にあたっている」
今後、CSOを経営幹部として起用する企業が増えるにつれ、このようなCFOとCSOの創造的緊張関係は多くの企業で見られることになろう。最高経営責任者は、それが自社にとってプラスに働くよう注意する必要がある。そのために大切なことはまず、期待と責任を明確にすることであり、さらにその緊張関係が個人的な対立ではなく、本質的な事柄を議論する上で生じているものであることを認識することである。CEOは、厳しいながらも健全な議論を導くことで、CFOとCSOの関係から最大限のメリットを引き出し、戦略策定・遂行のための重要な能力を新たに獲得するのである。
戦略に関するアクセンチュアのサービスその他の詳細は、お問い合わせフォームをご利用ください。
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