オープン・イノベーション
-オープン・イノベーション先進企業に学ぶ、自前主義脱却のKSFs-
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経営コンサルティング本部
戦略グループ マネジャー
松田 記子
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同担当 ビジネスアナリスト
鵜飼 勇人
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論文要旨
グローバル市場で継続的な高成長を遂げるキードライバーとして、イノベーションの重要性が高まりつつある。しかし、継続的にイノベーションを創出することは容易ではない。本稿では、継続的イノベーションへの一つの解としてオープン・イノベーションに着目する。オープン・イノベーションは決して新しい概念ではないが、現状を見渡すと、殊に日本企業はなかなか自前主義から脱却できていないのも事実である。本稿では、「狩猟型」と、「農耕型」と呼ぶに相応しい代表的なオープン・イノベーション先進企業であるP&GとAmazon.comの事例を研究し、オープン・イノベーションの成功要因を探った。そこから、日本企業がオープン・イノベーション成功させる為にまず何から取組むべきなのかについて提言をまとめてみた。
1. イノベーションの必要性
アクセンチュアがフィナンシャルタイムズ2007年発表FT500企業の成長要因分析を行ったところ、グローバル市場で継続的に高成長した企業は、「M&A」「グローバル化」「イノベーション」の3つが主なドライバーになっていた。この3つのドライバーを考えるに、「M&A」「グローバル化」に比べると「イノベーション」は、まだ継続的創出の仕組みが確立されておらず、効果的な成長ドライバーとして活用できている企業とそうでない企業の差が大きいと思われる。

2. イノベーションを取り巻く現状
しかしイノベーションを取巻く環境は、厳しくなる一方である。 製品ライフサイクルを2002年と2007年とで比較すると、13業種中12業種で短縮化しており、イノベーションにはますますスピードが求められるようになっている。他方、製薬企業におけるR&D投資額とNME(新規化合物)数の推移から見て取れる通り、企業がR&D投資を拡大しても新製品創出による回収率が思うように増加していないという現状がある。スピードと精度を兼ね備えたイノベーション創出モデルが渇望されているといえよう。

3. イノベーション創出モデルとオープン・イノベーション
アクセンチュアが提唱するイノベーションフレームワークではイノベーション創出のコアプロセスを「アイデア創出/調達」「アイデア価値評価とリソース割当」「アイデアの研磨と製品化」「上市後の適切な評価」の4ステップで定義している。
このコアプロセスをスピーディーにかつ効果的に運用するには、企業の限られたリソースだけに頼るのではなく、広く叡智を集め活かす仕組みが有効であると考えられる。その一施策として、オープン・イノベーションに注目が集まっている。

4. オープン・イノベーションの活用事例
オープン・イノベーションの手法は様々だが、企業の外部に存在するオープン・ソースを積極的に活用する狩猟型に例えられるタイプと、自社の資産をオープン化させてビジネスパートナーを呼び込み、イノベーションを促進させる農耕型に例えられるタイプに大別できると考えられる。本著では代表事例として、P&G(狩猟型)とAmazon.com(農耕型)を取り上げる。
4-1. 狩猟型オープン・イノベーション
【P&Gの狩猟型オープン・イノベーション】
(Diamond Harvard Business Review 2006 年8 月号「P&G:コネクト・アンド・ディベロップ戦略」(ラリー・ヒューストン,ナビル・サッカブ著)よりアクセンチュア要約)
P&Gは、自社の強みであるマーケティング力と社外のグローバルネットワークのコラボレーションにより、社内/社外問わず世界中のリソースから最適なアイデア・技術活用を実現させ、大きな成功を収めている。
しかし10年程前までは、社内中心のR&Dにより新製品創出数が減少し、イノベーション成功率(全新製品に占める、数値目標を達成した新製品の割合)も停滞(35%)、また時価総額も低迷していた。さらに、保有する特許のうち、製品に活用されていたのは約10%に過ぎなかった。
そこで、”Connect + Develop”をコンセプトに、未活用ライセンスを販売し、R&Dに関わるアイデア・技術を、社内だけでなく多様なネットワークを通して外部からも調達することを推進した。
(2010年までに製品の外部アイデア活用率50%を目指した)
その結果として、世界中のリソースから顧客ニーズに合致したアイデア・技術を獲得することに成功した。

以下、P&Gが構築したアイデア/ 技術のグローバルネットワークの一例を紹介する。
- 全社でアイデア共有することを目的としたイントラネット整備(InnovationNet)
- 中国・インド・西欧・日本・中南米・米国などにTechnology Entrepreneur (配属先各地で消費者ニーズ把握と社内の技術評価,社外の研究者やサプライヤーとのネットワーク構築を目的とした専門調査員)を設置
- サプライヤーの研究員50,000人との相互交流
- ”NineSigma”や、”InnoCentive”などの社外の仲介ネットワーク(科学的・技術的問題を抱える企業と,解決策を提供できる企業や大学,政府系研究所,民間研究所,コンサルタントとを引き合わせることを目的としたオープン・ネットワーク)を活用し、世界で100万人超の研究員とアイデア・技術交換
“Connect + Develop”活動で実現された製品の一例として、「Pringles Prints」が挙げられる。P&Gグローバルブランドのひとつ、「Pringles」のポテトチップ1枚1枚に絵や文章を印刷したものである。
本製品に活用される印刷技術は、P&Gが独自に保有していたものではなく、P&Gグローバルネットワークによって技術アイデアが調達され、製品用に改良されたものである。この取り組みの結果、P&Gでは想定上市期間の短縮や、R&Dコスト低減の効果を得ている。
“Connect + Develop”への取り組みによって、外部アイデアを活用した製品が137品目(2005年時点)産み出され、2010年までに50%を目指している外部アイデアの活用率も、2005年時点で35%にまで上昇した。
一方、財務面でも効果を挙げており、時価総額、イノベーション成功率ともに2000年と比較して2倍になっており、売上高R&D費比率も1.4ポイント低減されている。(2000年:4.8%⇒2005年:3.4%)
アクセンチュアが考察するに、P&Gのオープン・イノベーションの成功要因は3つに集約されると考えられる。
一つ目は、「目的意識の明確化」である。R&DのためのR&Dではなく、明確な製品コンセプトに基づき、技術探索を進めたことがイノベーション成功率やR&Dコスト低減に反映されたのではないだろうか。
二つ目は、「ネットワーク構築」である。世界中のアイデア・技術とコンタクト可能な、グローバルネットワークをソフト/ハード両面で構築したことが、実際のアイデア・技術調達を実現させたといえよう。
三つ目は、「R&Dのミッション変革」である。研究者に、社内で研究するだけでなく、社外アイデア・技術の活用についてもコミットメントを要求したことが、実効性のあるR&D促進につながったと考えられる。
【その他の狩猟型オープン・イノベーション事例】
P&Gの場合のみならず、様々な業界でオープン・イノベーションは企業成長の原動力として活用されている。以下、その例をいくつか記したい。
(イノベーション促進に向けた新知財政策「イノベーションと知財政策に関する研究会」の政策提言(原案)、ウィキノミクス, Don Tapscott and Anthony D. Williams, 2007と各社Webサイトよりアクセンチュア要約)
- IBM (コンピュータ機器、情報・通信)
- オープン・イノベーションを明確に企業方針として打ち出しており、提携等を通して社外技術を活用した研究開発を進めている。
- オープン・ソース開発支援を目的として、約500件の特許を無償公開、もしくは業界団体へ無償提供している。
- Intel (半導体)
- 事業化に5年以上必要と判断された研究開発は、自社部門の担当ではなく、大学を中心とした外部資源を活用する方針を採っている。
- 外部リソースへの支援・採用可否の判断については、専任の委員会(Intel Research Council)が実施しており、採用する場合は、研究所などの設備費・人件費を含めた運営費をIntelが負担している。
- Du Pont (化学)
- 社外の研究ソースのアイデアを取り入れつつ、17,000の特許を外部にライセンス提供。製品売り上げと並ぶ収入源の一つとしてライセンシングを重視している。
- Merck (医薬・化学)
- ライセンスを中心とした他企業との戦略的連携を利用し、医薬品開発のスピードアップ、効率化を図っている。2003年1月から2005年末までにメルクが取り交わしたインライセンス合意は57件に上る。
4-2. 農耕型オープン・イノベーション
【Amazon.comの農耕型オープン・イノベーション】
(ウィキノミクス, Don Tapscott and Anthony D. Williams, 2007よりアクセンチュア要約)
Amazon.comは、自社の保有する膨大な蔵書データと幅広い顧客層を抱える自社プラットフォームを開放、14万のサービス開発者を呼び込み、豊富なサービス開発とより多くの顧客獲得とを実現した。 Amazon.comは、創業当初に広告宣伝費不足からアソシエイト(アフィリエイト)プログラムを開発したことを発端に、低コストで顧客満足度を向上させる仕組みを追求している。その一環として、電子商取引エンジンのAPIを公開し、誰もがAmazon.comプラットフォーム上でサービス開発できる基盤を構築した。

① プラットフォームの提供
Amazon.comはサービス提供者に対して、サービス開発や顧客へのサービス提供を可能にする広大なAmazon.comプラットフォームを公開する。
② サービス提供(プラットフォームを介して)
サービス提供者は、開発したサービスをAmazon.comプラットフォーム上に公開し、Amazon.comの顧客へサービスが提供される。
③ Amazon.com売上の拡大
サービス提供者によって開発された顧客志向サービスの魅力でAmazon.com利用者が拡大しAmazon.comの売上が向上する。
④手数料還元
開発したサービスが活用され、Amazon.comの製品販売に繋がった場合は、Amazon.comの得た収益から、手数料がサービス提供者へ還元される。

プラットフォーム開放をはじめとするビジネスモデルによって、Amazon.comは151万の顧客口座を保有し(2007年時点)、14万社以上のサービス開発者の協力を得ている(2005年時点)。また、第三者による年間商品販売数の割合は、Amazon.com全体の28% (2005年時点)を占めており、オープン・イノベーションによって実現されたサービス効果の大きさが伺える。
Amazon.comのオープン・イノベーションの成功要因は2つあると考えられる。
一つ目は、「発想の転換」である。従来扱っていたモノ(書籍)ではなく、サービスを販売するビジネスモデル構築を志向することによって、自社のアセットをオープン化することを抵抗なく取り入れられたといえよう。
二つ目は、「社外の開発者を引き付ける、莫大なデータ資産の保有」である。オープン化によって社外の開発者を引き付けるために必要な、魅力的な製品/顧客データの蓄積とプラットフォームの整備が、Amazon.comのビジネスモデルを実現させているといえよう。
【その他の農耕型オープン・イノベーションの事例】
農耕型オープン・イノベーションはWeb2.0を牽引する企業が発端となった感があるが、最近では鉱業にまで拡大してきている。
(ウィキノミクス, Don Tapscott and Anthony D. Williams, 2007、各種記事よりアクセンチュア要約)
- Google (ITサービス)
- 自社サイトにて、検索機能のオープン・ソースを公開している
- ポートランド州立大学によるオープン・ソース技術センター設立、オレゴン州立大学のオープン・ソースへの取り組みに対し、金銭的支援を実施した。
- 地図や検索、デスクトップなどのAPIを無償公開している。
その他、Apple*やSalesforce.com等も自社技術プラットフォームをオープン・ソース化させている。
*Apple is trademark of Apple Inc., registered in the U.S. and other countries
- Gold Corp (鉱業)
(ウィキノミクス, Don Tapscott and Anthony D. Williams, 2007よりアクセンチュア要約)
- 自社の地質データを公開し、レッドドレイク鉱山の鉱脈探索アイデアをインターネットで懸賞募集。(賞金総額58万US$)50カ国1400の個人・団体が登録し、50の提案書によって110箇所の地点が提案され、指摘数上位5箇所のうち4箇所から実際の鉱脈が発見された。
5.オープン・イノベーションを目指す日本企業への提言
アクセンチュアではオープン・イノベーション先進企業の事例研究から、「掛け算型コラボレーション」「グローバルネットワーク」「イノベーション・プロデューサー」「全社規模での意識改革」というオープン・イノベーションの4つのKSF(キーサクセスファクター)を抽出した。以下にその説明を加えたい。しかし、日本企業の現状に鑑みると、KSFの実現はそう容易ではないと推測される。よって、各KSFを実現する為に日本企業がまず取り組むべきファーストステップについても提案したい。
1) 掛け算型コラボレーション
「掛け算型コラボレーション」とは、単純に社内外の技術を足し算するのではなく、自社の強みを梃子にして必要なケイパビリティを社外から調達することで、スピーディ且つ高いレベルでのイノベーションを実現するということである。但し、日本企業は自社の強みへの認識が弱い場合が多い。強みを認識しないままコラボレーションを図ろうとしても、イノベーション価値が増幅しないどころか、逆にそのオープン性ゆえに自社を危険に晒してしまう場合もある。
まずは、自社の強み・弱みを棚卸しし、十分に自覚することが、掛け算型コラボレーション実現へのファーストステップである。
2) グローバルネットワーク
「グローバルネットワーク」とは、ケイパビリティを探しにいく世界を可能な限り広めることでオープン・イノベーションのマッチング確率を高めることである。日本企業の場合、国内の業界活動に参画している企業は多いが、グローバルネットワークに積極的に働きかけたり、インフラを構築したりしている企業は稀である。まずは視野をグローバルに広げ、世界中のリソースに手を伸ばせるネットワークに参画する、もしくは自ら構築することが重要なファーストステップではないだろうか。
3) イノベーション・プロデューサー
ネットワークに接続できたとしても、外部を有効活用する意識がなければ宝の持ち腐れとなってしまう。オープン・イノベーションには、目的志向に基づき社内・社外のリソースを中立的に評価し、イノベーションをマネジメントする舵取り役が必要である。反面、日本企業では自前主義の傾向が強く、縦割りの組織が社内コラボレーションすら阻害している例が少なくない。まずは、社内外を問わずリソース最適活用を促進する仕組み・制度の整備と、社内横断のプロジェクトマネジメント能力の強化が、イノベーション・プロデューサー創出のためのファーストステップとなる。
4) 全社規模の意識変革
いかに優れたネットワークとマネジメント能力を保有し、自社の強みをレバレッジさせるコラボレーションを考え付いたとしても、R&D部門のみの変革ではなかなか既存ビジネスの延長線から抜け出せない。日本企業はイノベーションをR&D部門のみに任せることや、コスト効率だけを追求することをやめ、ビジネスモデルの変革機会としてオープン・イノベーションに取組む必要がある。まずは、顧客にどんな価値を提供する企業を目指すのかを明確にした上で、オープン・イノベーション成功のために全社規模で何をしなくてはいけないのかについて、しっかりと議論することが必要である。

アクセンチュア イノベーション支援サービスについて
アクセンチュアにはイノベーションコンサルティングを担当する専門部隊がグローバル規模で存在する。自社内に先端技術の研究所を設立し新しいビジネス・アプリケーション及びソリューションの開発に取組むだけでなく、あらゆる業界のクライアント企業に対し、戦略立案から組織/プロセス改革、IT導入/活用、アウトソーシング等、広範囲なサービスを提供し、効果的なイノベーション創出を支援している。
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