不況時のM&A 「バイイング・ロウ」:ハイパフォーマンスの源泉
クリステン・フィセリー
アーサー・バート
アンディ・ティンリン
ミルコ・ディエール
現在、世界を襲っている経済停滞の根は深く、終わりは見えない。しかし、この不況によって全ての企業とその展望が等しく影響を受けている訳では無い。
現在の不況で多くの企業が苦しんでいる。それでも堅調なバランスシートと財務パフォーマンスを見せている企業は存在する。もしこれらの企業がM&Aを考えているとすれば、現在の状況は企業価値を高める上で大きなチャンスをもたらしてくれるだろう。
こうした経済停滞時の買収が、市場にインパクトを与える大きな価値向上に繋がる理由は3つある。まず、世界的に企業の市場資本が前年から40%-70%低下している。この事により、買収先からキャッシュフロー、市場シェア、そして事業シナジーを引き出す際に必要となる「参入コスト」が格段に低くなっている。 次に、企業価値の全般的な低下により、以前は手の届かなかった企業も買収ターゲットに含む事が可能となった。資金力のある企業にとっては、より大胆な戦略を打ち出す事で、以前は考えられなかった市場シェアやリーダーシップポジションの獲得が可能となった。最後に、負債や株式による資本調達に依存してきた企業や、財務的に課題を抱えている企業が動きにくい状態であるため、買収に向けた競争は減り、ビッド価格は低く抑えられている。
こうした環境においては、まさにキャッシュの有無が勝敗を分ける。財務的に強い企業は積極的に「バーゲン価格」の買収機会を活かし、ストラテジック・ギャップを埋め、市場ポジションを強化すべきだ。現在の不況を踏まえ、キャッシュを使うのをためらう経営者もいるだろうが、不況が終わる頃には、各国政府の保護主義の高まりも予測され、それ以上のリスクが待っている事だろう。各業界のリーダー企業はリスクを考慮しつつも、現在与えられている機会を活かす方法を考えるに違いない。
ただ、いくら安い値段で実現出来たとしても M&Aには元来リスクが付き物だ。統合作業は難しく、組織・経営レベルでの摩擦が予想される。不況時のM&A成功条件は、好況時と 変わらない。収益ポテンシャルを正確に測れる価値評価を行おう。描いた成長戦略から反れない様にしよう。ニーズを的確に特定し、実際に競争優位に繋がる買収先を見つけよう。シナジー効果を見極めよう。そしてディール時の想定通りに業務・財務目標が達成される様、効果的な統合を行おう。
成功するM&Aの5条件
過去6年間の最大案件10件の内6件を含め、我々は過去に400以上のM&A案件を扱って来た。それらの経験を通じアクセンチュアは、この不況時、またそれ以降に規模の増加や成長に向けて買収を考えている企業に対し、次の4つの重要アクションを取る様に奨励する。
- M&A戦略と買収先スクリーニング手法を精緻化する
M&Aのゴールは常に、現在のストラテジック・ギャップを埋める事と心得る必要がある。しかし、実に多くの企業(特にコーポレートビジネス開発部門を持った企業)が財務的な観点に依存した一次スクリーニングにて買収先候補を絞っている。本来、一次スクリーニングではそもそも買収が既存の展開地域、スキル、または製品における戦略的ニーズに合致しているか否かの検討に主眼を置くべきだ。そうする事により、買収ターゲットの選択肢も広がる可能性もある。例えば、企業をまるごと買うよりも、一つの製品ラインや事業部門を買う事でより大きな効果が見込める場合も多いのである。
- 非連続性を見る
ここでいう「非連続性」とは、現在の不況の中、優良企業が市場全体や、より劣勢の同業他社によって足を引き摺られているケースを指す。実際よりも低く評価されているのである。では、どうすればこの様な非連続性が見つかるのか。不況前とファンダメンタルズが変化していない企業、もしくはバリュードライバー(顧客数など)の低下が市場全体の低下ほど急でない企業を探せば良い。
- 潜在的なシナジーに集中する
M&Aにおいて合併シナジー効果の価値評価は常に重要だ。しかしキャッシュフローとバランスシートの堅牢さがものを言う不況時には、効果の現実的な予測や、買収タイミングの選択が一層重要となる。シナジー効果を正しく定義し、数値化するには、高度な業務横断ベンチマーキングが求められる。現在の環境において買収者に何が出来るのか、また、重複した生産施設の統合など、特別な検討事項がないかを考慮する必要があるのである。これらの二つの視点を融合させる事で、企業はベンチマークが現実的か、また目標設定が必要程度に大胆か見極める事が出来る。
- ポテンシャルを実現する
想定通りのシナジー効果を実現するにあたり、最も重要なのは、きちんと事業の統合を行えるかである。これまでの経験を通じ、企業が統合を成功させるには、3つのステップを 踏まえる事が必要であると我々は考えている。第一に、本当に価値に繋がる活動に的を絞り統合作業を行う事。全業務を手当たり次第に統合しようとしても無理が出て来る。第二に、統合作業チームを結成する際には、明確な規則やスコープを定め、経験・知識共に豊かなマネージャーをフルタイムで配属する事。第三に、合併につき政府承認が下りた時点と統合後に会社が動き出す時点のギャップを最小に留めるための要件を予め定義しておく事だ。

- 顧客視点を保つ
業績が良好な時でも、大半の消費者は彼らの使っている企業のM&Aによって、彼ら自身が利する事は無いと感じている(上記アンケート結果参照)。不況時には、この傾向が著しく強くなる。生存をかけて戦う企業は、沈まないために、またキャッシュフローを保つために、値下げやその他のインセンティブを含んだあらゆる手段を使って来る。結果、買収側としては顧客維持のためにプロアクティブなアプローチを心がける必要性が出て来る。合併の利点を明確に顧客に伝える事。統合作業はスピーディに行い、統合後は一刻も早く企業を通常業務に乗せることが必須である。
まとめ
現在の経済状況はどの企業にとってもチャレンジであり、見通しは悪い。しかし、それゆえに、経営者は果敢に行動する事が求められるのである。何もせずに状況を見守る事のみが戦略的な選択肢では無い。適切な事業を適切な価格で獲得し、統合を成功させる事が、多大な価値をもたらす事を我々はよく知っている。特価で事業が買収出来るのであれば、なおさらの事だ。不況を逆手に取って買収機会を窺う事で、強い企業は一層強くなる。短期的にも、そして経済回復後もハイパフォーマンスが可能となるのである。
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筆者について
クリステン・フィセリーはアクセンチュア成長戦略グループのシニアエグゼクティブ。北米におけるM&Aプラクティスのリードであり、ビジネス変革とM&Aにフォーカスしている。多数の大企業、中小企業、そして非営利団体をクライアントとして抱え、成長戦略、M&A、ビジネス・リエンジニアリング、及び戦略的変革に取り組んで来た。M&Aに関しては、近年のテレコム企業の大合併6件など、20を超える案件に携わって来た。多数の記事執筆の他、M&A企業変革につき講演も行っている。
kristin.ficery@accenture.com
アーサー・バートはアクセンチュア成長戦略グループのシニアエグゼクティブ。アジア・パシフィック地域におけるM&Aプラクティスのリードである。21年間のキャリアを通じ、M&Aや戦略コンサルティングを含む多くの領域でクライアントを支援して来た。これらのクライアントの中には「フォーチュン誌1000」に含まれるクライアントも多く、彼らと共に25件を超える大型合併案件に取り組んで来た。アクセンチュアに加わる前は、A.T.カーニー社のアジア・パシフィック地域プラクティスのマネージング・ディレクターを歴任。同社のグローバル合併・買収・アライアンスグループのリーダーを務めた。ボストン在籍。
arthur.r.bert@accenture.com
アンディ・ティンリンはアクセンチュア成長戦略グループのシニアエグゼクティブ。M&Aプラクティスのグローバルリード。20年近いキャリアを経て、現在はクライアント経営陣と共に成長戦略、M&A、ビジネス変革領域における戦略・業務課題の解決に当たっている。アクセンチュアに加わる前はKPMG社にて同様の案件に携わって来た。また、複数の民間企業の経営メンバーも務めた。
andy.tinlin@accenture.com
ミルコ・ディエールはアクセンチュア成長戦略グループのシニアエグゼクティブ。合併統合プラクティスのグローバルリード。1995年の入社以来、数々のリーディングクライアントと共に企業戦略、M&A、合併後統合、資源産業を中心とするビジネス変革の戦略・業務課題の解決に携わって来た。ミュンヘン在籍。
mirko.dier@accenture.com
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