M&A 「成長機能」自社内のM&A機能設置
ジル・S・デイリー
ドナ・L・ピータース
その時々の経済状況に関わらず、強い企業は常に買収を通じてケーパビリティ・ギャップの解消や規模の獲得・維持を実現している。不況は株価を低下させ、金融市場を締め付けているが、多くの企業にとってM&Aが長期成長戦略の鍵である事に変わりはない。資金力のある企業にとって、現在はバーゲン価格で買収出来る好機でもある。しかし、金融業界で見られた様に、買収の決断に数日の猶予しか与えられない事態も発生し得る。よって、確固たるM&A ケーパビリティとスキルを持った自社内チームが一層重要となる。
M&A案件を通じて最大の価値を手にするには、他の「ミッションクリティカル」な業務プロセスやプラットフォームと同様、ディールの全ライフスパンにわたる買収関連機能を自社に持たせる必要がある。
事実、頻繁に買収を行っている企業は、既にこうした機能とアプローチを備えている。これらの企業による買収は、毎年の市場におけるディール数の大部分を占めている。過去5年間を見ると、買収額における上位20企業は、平均4案件もの買収契約を結んでいる。また、2007年の上位50ディールに関わった企業の内、半数以上は過去2年間で少なくとも、もう1件の買収を行っている。
M&Aは多くの企業によって、成長戦略の中核として認識されている。しかし、想定通りの効果を実際のディールを通じて獲得出来ている企業はどれほどあるだろうか。
合併を通じて成長を目指す場合、創造価値の大きさは買収と統合のそれぞれの段階を経て決まる。多くの企業は未だに統合に必要な能力を欠いている。アクセンチュアとエコノミスト・インテリジェンス・ユニットの共同調査では、直近のディールで期待していた効果が実現出来たと回答した企業は、420社中、半数以下であった。
もしM&Aが会社の成長に大きく貢献するのであれば、IT、マーケティング、財務やその他の「ミッションクリティカル」な機能同様、常設すべき機能として認識されるべきである。この機能を設置する上では、複数のM&A案件に対処出来る社内プロセスやプラットフォームを準備する必要がある。各ディールで最大限の効果を上げる事を目標に日々活動する。別に大掛かりな機能を設置する必要は無い。環境・法務デューデリジェンスの様に外部サポートを得た方が効率的に(かつ安価に)対応出来る個別案件も多いだろう。
ただし、合併全体の成功という話になると、買収ライフサイクルの全段階(戦略策定や企業文化のデューデリジェンス、統合など)を評価出来る仕組みが自社内で必要となってくる。その都度のニーズに合わせ、再現性の高い結果を確実に出せる仕組みが求められるのである。こうした仕組みがあれば、全社の企業戦略とM&A戦略の整合も取り易くなる。
アクセンチュアは、こうした機能を有する多くの企業に接して来た。機能設置の最初の重要なステップは、そもそもその機能を通じて何がしたいのか正確に認識する事である。例えば、大型の海外ディールを通じた成長に主眼がある場合、国内の小型案件への投資に特化した機能を持つのは無駄である。また、機能を過度に複雑なものにする必要は無い。規模も予測される統合作業に合わせれば良い。
ただし、どの様な目的であっても、全てのM&A機能には、ディール・ライフサイクルの全段階に関わる共通プロセスやスキルがある事が分かっている。
アクセンチュアは過去5年間に500件以上のM&A案件に関わって来た。それらの経験を通じ、規模拡大の為に買収を考えている企業が特に重要視すべき4つの行動を特定した。
- 買収先の特定
- シナジー効果の評価
- シナジーの獲得
- 社内文化の評価
買収先の特定
適切な買収先を見つける事は、買収を成功させる上での必須条件である。様々な視点が必要である。例えば、海外市場にどの様な買収候補があるか正確に把握出来る事が、近年では特に求められている。実際、2007年の全世界ディール額の半分はクロスボーダー案件で占められている。こうした案件では、買収者は、自らの視点のみならず、買収先の視点にも立ち、買収がもたらす効果を評価する必要がある。
他国の競争・規制環境を理解するのは難しく時間もかかる。しかし地域アドバイザーによる徹底的なデューデリジェンスを経て、ローカル市場を理解することが極めて重要だ。デューデリジェンスを通じ、今後待ち受けている課題の姿を明らかにする事で、当初のシナジー効果見積もりと統合計画の妥当性を評価出来る。
買収先の特定に重要なもう一つの視点は、組織内スキルの活用だ。製品・市場・顧客・技術の専門知識を備えていれば、どの買収先が組織の成長に貢献するかが判断し易くなる。ただし、同時に厳格なディール評価も行う必要がある。マイクロソフト社は、買収先候補の特定に、自社グループ全体の膨大なリソースをフルに活用している。グループ内の各組織は、自らが展開する市場で率先して機会を探す。欧米のベンチャーキャピタルや、提携パートナーからも多くのアイディアを取り入れている。
また、買収先の持つスキルを正確に判断する必要がある。買収される側にとっても「理想的な買収者」として評価が高いシスコシステムズ社は、この点で特に優れている。買収を行う際は、買収先の技術のみならず、人々やアイディアに重きを置いている。買収先の人材は、一定期間はどうしても買収・統合作業に拘束される。この事実を認識し、シスコは買収後初めて出す製品に関し10億ドル規模の売上期待を押し付けない。そこで結果が出なくても、即座にスキルが無いとは判断しない。その次の製品に期待するのである。その製品も、買収先の人材の力が無ければ完成しないのだ。

シナジー効果の評価
企業価値評価の考え方は一般に浸透して来ており、効果的かつ効率的な外部委託が実践されている。しかし、M&Aを通じた全体的なシナジー効果の把握が達成出来ているか否かは別問題である。
それぞれの合併交渉には独自の難しさがある。ディールにおける競争や体制、決断に与えられた短い時間、そして経営者から課せられた数々の期待、など枚挙にいとまが無い。こうした要素が交渉に入って来ると、買収者側が、買収先の問題を抱えた現場状況を受け入れざるを得ないなど、様々な譲歩を強いられる事もある。
買収における交渉メンバーは、実際に統合作業に関わる人々とキャリアパスの異なる人が多い。その為、ディールにて描かれたビジョンが、業務や組織の現実と相容れないケースも少なくない。
交渉メンバーは、二つの複雑な組織・文化の統合において、無謀な時間とリソースの制約を受け入れる傾向にある。逆に、現場レベルのリーダーが、上流の企画メンバーの苦労を認識出来ない事も多い。双方間で十分な意思疎通が行われていないのである。
こうした中、成功企業は上流から下流まで、各業務を全体的に捉え、ディールに関わる全てのチームから企業価値評価に関する声を集める。頻繁に買収を行っている某アパレル大手は、各ビジネスユニットのトップを買収先の価値評価に参加させる。また、小規模な買収を繰り返して成長を続けている某保険会社も、それぞれの買収案件に対し、各ビジネスユニットリーダーの承諾を取り付けている。結果として、両社ともスムーズな統合を実現している。
シナジーの獲得
一部の企業は既に、買収のノウハウを自社制度に取り入れている。これらの企業は、経験豊かな社員をデューデリジェンスチームに配属し、ディール横断的に適用可能な自社プラクティスを確立している。
米国保険制度の中心的なプレーヤーであるセンティーン社では、年間3-5件の買収を行っている。これらの案件に横断的に関わるのは、2、3の法務チームに限られている。これらのチームはCEOとの緊密なコミュニケーションを許されており、CEOが承認を出すであろう買収案件を最低限のやりとりで事前に予測出来る。こうした制度を持つ事で、CEOの時間はより戦略的な意思決定に充てる事が出来るし、ディール処理も効率良く進む。
センティーン社のデューデリジェンスチームの構成は、個々の案件によって異なる。ITの知識が必要となるディールであればIT人材が別の部門から引き抜かれて来る。主要な担当者は優先的な案件配属により関連スキルを伸ばす事が出来る。会社はディールごとに新しい視点を身に付ける事が出来る。これらの視点は将来のディールにおいても役に立つ。
上記以外に、買収先の完全統合に向けて重要なスキルが2つある。
社内文化の評価
前出のアクセンチュア、エコノミスト・インテリジェンス・ユニットの共同調査では、組織力の向上と企業文化の理解をM&Aの成功に最も重要な要素として認識している企業が回答者の3分の1をも占めた。この認識は、国内案件であってもクロスボーダー案件であっても一緒である。重要なのは買収先文化と自社文化の相性のみでは無い。むしろ、買収前のどちらの企業の文化よりも、より戦略的ニーズに合った、新しい企業文化を構築する事が重要である。
企業文化の評価は非常に難しい。通常のデューデリジェンス項目に含まれない「チームワーク」、「競争」、「報酬」、「影響力」など、可視化しにくい要素が重要となって来るからである。体系的な評価手法を確立する必要がある。
教訓を踏まえて
M&A機能は、その他のコアビジネス機能と同様、継続的に評価され、改善されなければならない。関わる人材の評価やインセンティブの仕組みに「必須スキル」を組み込む必要性もある。また、現在のスキルを率直に評価出来る仕組みの必要がある。スキルの高い従業員が買収関連作業に関心を持つ様に、企業によっては、「統合マネージャー」職を上級管理職として位置付け、社内の誰もが認識する花形ポジションとして扱っている。結果、成功を収めている。
また、他の企業では、買収案件でのパフォーマンスを様々な視点から測定するレポートカード、また統合の進捗を客観的に確認する為の指標を設けている。時間、予算通りに進んでいるか。想定していた全てのシナジー効果が確認され、実現出来ているか。
某大手保険会社では、数々の買収を通じて得た教訓を取り込むための仕組みを確立した。統合チームメンバーを集め月次セッションを開催し、全ての合併案件の進捗レビューを行っている。また、ウェブ上のデータベースにてM&Aアプローチを整備し、全社員が参照出来る様にしている。
ハイパフォーマンスに向けて
成長に向けた実効的な手段として、M&Aの経営課題としての重要度は日々高まっている。アクセンチュアの「ハイパフォーマンスビジネス研究イニシアチブ」調査の結果、ハイパフォーマンスビジネス企業の特徴として、不況時においても怯まず、積極的に動く事で、競争力を獲得している事が明らかになっている。コストを削減しつつ、顧客視点を強化し、業務の効率化とスキル・資産の獲得を同時に行っている。
自社内にM&A機能を持つ事は、現在の不況の中でこうした競争力を保つ上でも、また景気回復後にハイパフォーマンスを出し続ける上でも重要である。この機能を持たずして、今後の成長は難しい。M&A機能の設置は、全ての企業が向き合わなければならないチャレンジなのである。
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Appendix 1
自社の能力を評価する

買収案件が国内であってもクロスボーダーであっても、アクセンチュアとエコノミスト・インテリジェンス・ユニットの共同調査の結果によると、M&Aにおける最も重要な要素は統合プロセスの指揮と調整である。この結果を踏まえ、ここで答えるべき質問は「自社は正しいM&Aケーパビリティを有しているか」である。
この問いに対する答えを出す上で、Accenture Merger Integration Methodologyなどのベストプラクティス手法を使用した、現状ケーパビリティ評価の実施が効果的である。Accenture Merger Integration Methodologyは以下の3視点から評価を行う。
- 合併フレームワークの設置
- 統合計画の策定
- 統合計画の実行
一般的に、上記は複数の評価方法によって行われる。
- 経営陣および統合チームインタビュー
- インターネット上での自己評価
- 手法、プロセス、ツールの評価
- 過去の顧客買収や統合における成功体験のレビュー
例として、「Merger Integration Report Card」が各M&Aケーパビリティの測定に使われる。(上記ご参照)
M&Aケーパビリティ評価の成果物としては以下が含まれる:
- 定量的、定性的な評価結果
- クライアントのM&Aケーパビリティの全体的な「信号」評価
- 成功確率を上げる為の、具体的なハイバリューM&Aケーパビリティ改善の推奨
上記のアプローチを使う事で、あるグローバル製造業は自らの改善領域を明確に特定し(M&A計画・実施ケーパビリティの醸成)、既存の買収手法を改善する事が出来た。また別件で、ソフトウェアベンダーが、M&Aケーパビリティ評価を通じ、「平均以下」として評価された統合ケーパビリティの改善に集中する事で、買収のリスクを減らす事が出来た。
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Appendix 2
「企業文化」を定量化する
アクセンチュア独自の文化価値評価(CVA)ツールは、買収先の文化を測定する上での客観的なアプローチを提供し、買収者のスムーズな統合作業を可能にする。このツールは定量的な指標(客観的なデータ収集・調査手法を使い、組織全体から取得)と定性的な質問・フォーカスグループ回答の両方を使用する。CVAツールは、企業文化という「ソフト」な主題に対し「ハード」な科学を適用し、深く切り込んでいく。ここで得られたインサイトはハイパフォーマンスに向けた企業戦略の策定・実施に貢献する。
CVAツールは、アクセンチュアが2007年にジョージグループを買収する際にも重要な役割を果たした。企業文化関連の施策で失敗すれば、ジョージグループの専門家集団が会社を出て行ってしまう可能性もあった。今回買収対象となった価値の出所は彼ら自身(彼らの所有している知的資産やクライアントとの繋がり)であった為、それは避ける必要があった。また、ジョージグループの市場における優位性やブランドを保つ上で、企業文化の尊重は重要であった。企業文化の評価を行った事で、幾つかの重要な発見があった。全体的に見れば、両社の従業員とも今回の買収を良い事だと認識していたが、ジョージグループの社員は、アクセンチュアにおける勤務年数の短さと、巨大な会社による吸収そのものが、彼ら自身のキャリアアップを遅滞させ、起業家精神を萎えさせるのでは無いかと危惧していた。
この理解を踏まえ、アクセンチュアは様々なアクション計画を推奨した。社員同士の相互連絡キャンペーンやメンター制度の導入を通じ、ジョージグループのコンサルタントにプロフェッショナルとしてのネットワーキング手段を与えた。彼らに課せられている期待を明示化し、アクセンチュアにおけるビジネスの仕方を伝達するトレーニングを行った。また、アクセンチュアのコンサルタントで構成された品質保証チームによって、ジョージグループプロジェクトリーダーにアクセンチュアにおける手法・ポリシーのアドバイスが与えられた。また、アクセンチュアの社員に対しては、ジョージグループの実績や市場での強みを伝えた。特にシニアエグゼクティブが買収によって可能となったセールス機会を認識出来る様に配慮した。
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Appendix 3
成功に向けて
どの様なM&A機能を設置するかが勝敗を左右する。以下の5つの質問への回答を参考にされたい。
- 統合に最も重要なスキルは何ですか?
統合に求められるスキルは買収先の規模によって異なります。規模の大きな案件では、高いプログラム管理能力や意思決定能力を持った個人の関与が必要です。
- どのスキルを集約化すべきですか?
統合作業の各領域(HR等)に跨って必要となるスキルを集約化すべきです。集約化されたスキルを持たせるメンバーはどの領域から来ていても構いません。統合作業においては彼らが主要コンタクトとなります。
- どのスキルを内部もしくは外部で持つべきですか?
高度な専門性を要するアクションであれば、外部機関に任せるのが良いと考えています。勿論、既に特定の専門領域で差別化出来る程の能力を備えていれば、この限りではありません。中国など知的財産権関連の課題が多い環境では、地元の法的なアドバイスが不可欠です。また、クロスボーダー案件については、ローカル市場の機関によるアドバイスはほとんどの場合欠かす事が出来ません。これらのアドバイスは、実効性のあるデューデリジェンスに必要です。また、こうした機関自体が統合プロセスに参画出来ればより望ましいと言えます。
- M&A機能はどこに設置すべきですか?
統合チームがどこに設置されているかは、あまり重要でなくなって来ています。特にグローバル買収案件は複雑化して来ており、通常複数の場所に跨っています。適切なリーダーシップの可視化や情報の透明性を担保する為、M&A機能は物理的な場所に捉われない、双方向コミュニケーションプロセス・技術を導入する必要があります。ソーシャルネットワーク、ブログやビデオカンファレンスの使用はこうした双方向の対話を可能にし、統合に関わる人々の間で効果的な情報共有を実現します。
- 誰がどの決定を下せば良いですか?
もしディールがビジネスユニット内に閉じたものであれば、ユニットのリーダー(財務的な結果に対する責任者)がディール・統合作業の承認を行うべきです。もしディールが全社規模のものであれば、迅速な意思決定が出来、その意思決定がきちんと尊重される様に、極力経営トップに近い人にM&Aライフサイクル全体をマネージして頂く必要があります。
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著者について
ジル・S・デイリーはアクセンチュア戦略グループのシニアエグゼクティブ。買収者企業内でのM&Aケーパビリティ設計・構築に数多く取り組んで来た。また、10年に及ぶ戦略コンサルティングの経験を経て、有機的成長戦略、M&A統合、また統合のうまく進まない企業の修復等、多岐にわたる領域でクライアントをサポートして来た。 米国フローラムパーク(ニュージャージー州)在籍。
jill.s.dailey@accenture.com
ドナ・L・ピータースはアクセンチュア戦略グループのシニアエグゼクティブ。グローバルM&Aで豊富な経験を有している。特にケーパビリティ構築、業務モデル戦略、そして組織デザイン(営業・マーケティングプロセス、PMI、製品上市における変革プログラム設計・実行など)に強い。アトランタ在籍。
donna.peters@accenture.com
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