事例紹介 ブロックバスターのブリック&クリック戦略
グレゴリー・J・ミルマン
ブロックバスターは、包括的事業改革の一環として、顧客にインターネットでの利便性と 店頭販売を組み合わせた新しいオンライン映画レンタルプログラムを開始した。
世界に9,000店舗を構えるブロックバスターは、米国のビデオレンタル市場におけるリーディング・カンパニーとしての地位を確立してきた。しかし、ビデオレンタル市場の競争の激化や購入者の嗜好の変化に伴い、店舗のみでビデオをレンタル、販売するビジネスは容易ではなくなってきていた。事実、ケーガン・リサーチのアナリストは、ビデオレンタル市場動向を横這いと分析している。
しかし、以前から経営方針の転換を徹底的に研究していたブロックバスターは、今や単なるビデオレンタル企業に留まらず、ゲームソフトの品揃えを強化し、DVD販売、オンライン・レンタル、さらには中古映画ソフトやゲームの取引など、新規事業を拡大し、今やホーム・エンターテインメント企業と呼ぶにふさわしいビジネスを展開している。
こうした事業形態により、ブロックバスターはホーム・エンターテインメント市場のあらゆるビジネスに参画している。ケーガン・リサーチは、DVDとVHSテープ双方の販売およびレンタルを含むホームビデオ事業を「驚異的成長」と説明している。DVDプレーヤー価格の急激な下落(2003年の価格は、1997年の価格の5分の1)のおかげで、業界全般のDVD販売量は急上昇している。
さらに、DVDの卸売価格はビデオテープよりも大幅に安く、また消費者の嗜好の変化もあって、映画関連DVDの粗利益率が増加している。従来の利用時払いのレンタル取引にはあまり変化がないが、店頭、オンラインを含む月間レンタルには成長が見込まれる。
当然、競合他社との競争は激しい。ブロックバスターが新規事業を成功させるためには、原価に近い価格でDVDを販売しているウォルマートや、オンライン・ビデオレンタルの先駆者であるネットフリックス、また、各地の多くのビデオレンタル店よりも優れたサービスを提供しなければならない。このオンラインDVDレンタルビジネス戦略の成否は、ブロックバスター・オンラインの副社長兼部長、シェーン・エバンジェリストの手に委ねられた。ブロックバスター・オンラインは、2004年の前半にはまだ存在しなかった事業部である。
ブランド力
ブロックバスターの戦略は、強力なブランド力、広範な店舗ネットワーク、 安定した顧客基盤の上に築かれている。たとえば、同社は最近、低価格ビデオ販売分野でブランド・ロイヤルティを構築するために、中古DVDを店内の全ての商品購入に使用できるクーポンと交換できるトレード・プログラムを導入し、また、毎月無制限で映画DVDをレンタルできる定額の月間レンタルプログラムを始めて、店頭のレンタル価格を値引きした。
同社は2004年の夏にオンライン・レンタル・プログラムを開始し、他の競合他社の追随を許さないブリック&クリック (店舗販売とインターネット販売)型のフレキシブルなサービスで、顧客に利便性を提供すること成功した。
ブロックバスターのオンラインサービスは、開発に数年を要したが、2002年に後のブロックバスターのインターネットチャネルのR&Dラボとなったフィルムキャディを買収したことで、一気に実現化した。エバンジェリストは「フィルムキャディ社を買収して、レンタルパターン、月間レンタル客の獲得法など、オンライン顧客の行動リサーチを行いました。おかげでオンライン・レンタル・チャネルの流れが理解できましたし、オンライン顧客が当社の店舗でどのような行動を取るのかも予想できるようになりました。また、オンラインプログラムの顧客は、店舗でのレンタルを継続する傾向があることも分かりました」という。
同社はフィルムキャディのデータの補足としてさらに質的・量的な顧客調査を実施して、オンライン顧客にはインターネットでの利便性と店舗販売を組み合わせたプログラムに明らかに人気があることが分かった。広範な店舗ネットワークが、サイバースペースに参入したブロックバスターにとって、過去の遺物となるどころか強力な事業システムとなる可能性が出てきたので ある。
しかしながら、この新たな利点を実現化するのは容易ではなかった。「私たちは当初、商品を店舗から直接発送したいと考えていました」とエバンジェリストは説明している。「これはまだ高望みすぎだったようです。ですが、デリバリー・センターのシステムが確立されたため、店舗在庫を活用し、直接発送によるオンライン需要を軌道にのせる方法を再び検討しています」
商品を店舗から顧客に直接発送する方法は、確かに理に適っている。ブロックバスターの店頭に並ぶ豊富な映画ソフトの中には、棚に眠って活用されていないものも多い。各店舗がオンライン注文に対応できれば、在庫の回転率を向上できるし、店舗が顧客の居住地に近いため、より迅速な配達も可能となる。
ブロックバスターは、オンライン事業のシステムの開発をアクセンチュアに依頼した。両社は、いきなりオンライン・ベンチャー事業に店舗を含めるよ りも、2段階のアプローチを取って、システム構築することを決定した。まず第1段階として、オンライン顧客を専門に扱うデリバリー・センターのネットワークを整備することにし、ブロックバスターはできるだけ多くの顧客に翌日配達することを希望した。この優先事項はデリバリー・センターの立地から在庫内容まで、あらゆる業務に影響を及ぼした。
その中にはDVDを入れる封筒のデザインも含まれていた。他のオンライン・レンタル各社の配送システムを調べたブロックバスターは、第1種郵便として 発送できるパッケージを考案し、顧客が無料で簡単にDVDを返送できるようにした。
ブロックバスターはアクセンチュアと協働で、できるだけ多くのDVDレンタル客に、受注の翌日には配達できるデリバリー・センターの候補地を選定した。その結果、開発チームは、顧客の居住地に近い地域に配送センターを設立しても、それが必ずしも翌日配達を可能にする絶対条件ではないことも 学んだ。
個々の郵便局には異なる業務形態が存在したのである。発送よりも到着する郵便の数が多いところもあれば、その逆のところもある。また、業務処理能力が限定されている郵便局もあった。デリバリー・センターが最も効率よく機能するには、顧客との距離に加え、適切な処理能力を備えた郵便局との距離も考慮することが必要だったのである。
迅速な稼動を探るために、アクセンチュアはダラスにテスト的にデリバリー・センターを設立し、各種の処理方法、設備、レイアウトをブロックバスターが実験できるようにした。最適なモデルが決定すると、全国10のデリバリー・センターのマネジャーをダラスのテストラボに集め、トレーニングを実施した。
オンライン・レンタル事業の承認から9 カ月後の2004年8月、ブロックバスターはプログラムの運営を開始した。オンライン顧客は30,000タイトルを超える在庫から観たい映画を選択し、優先順位を決定することができた。ブロックバスター・オンラインが立ち上がるまでWebサイト、品質管理システム、「評価・コメント」エンジン、請求書作成処理、アカウント管理、 顧客サービス、eクーポンの管理システムの開発など、さまざまな業務をクリアーしたが、中でもセンターにストックする映画を選定する作業は、顧客の嗜好を見極める上でも、最も重要な作業の1つであった。
顧客の呼び戻し効果
ブロックバスターのオンライン・レンタル・プログラムは、店舗で使える1カ月あたり2本の無料レンタルクーポンがもらえる点がユニークである。これはオンライン・レンタルが、店舗の売上げを低減させることを防ぐだけでなく、嘗て店舗レンタルを利用したことがある顧客を呼び戻す効果も生み出した。
エバンジェリストは「今のところ、ブロックバスター・オンラインの顧客の50%以上は、新規顧客か過去6カ月の間店舗を利用しなかった顧客です。オンライン・クーポンは新しい顧客の心をしっかりつかんで、店舗に足を運ばさせています。店舗に来てもらえさえすれば、ブロックバスターが中古DVDの販売や、数多くのゲームを取り揃えている、単なるビデオレンタル店でないことが分かってもらえる筈です。私たちは、ブロックバスター・オンラインが 顧客層を拡大させていくことを確信しています」という。
しかしこれは、同社にとってほんの手始めにすぎない。2005年度末までには、デリバリー・センターを補完する形で、店舗在庫を利用し、店舗から直接発送する、店舗販売とインターネット販売との完全統合を実現することを目指している。近所のブロックバスター店が月間レンタル客に対応し、オンラインと店舗双方のサービスをシームレスに提供できる日は間近である。
「翌日配達地域および在庫稼働率の有効化でサービスレベルを向上させ、店舗在庫を利用して製品入手を改善し、コストを削減する計画です」とエバンジェリストはいう。
ブロックバスターはますます競争が激化するホーム・エンターテインメント市場で、既存サービスの向上という方法を採らなかった。その代わりに従来のビジネスを見直し、一部の者がお荷物と捉えていたビデオレンタル店のネットワークを、新たなビジネスとして活用する逆転の発想を生み出したのである。アクセンチュアのメディア・アンド・エンターテインメント・グループのジョン・ロマノウは、ブロックバスターの経験から全てのビジネスに通じる教訓を見出している。「消費者が商品の利用方法を変更する兆しを察知したら、企業は顧客ニーズを満足させられるように業態を変えていかなければなりません。ブロックバスターはそれを実現しました」
ウォール街は同社の戦略をどう受け止めるであろうか。いずれにせよ、ブロックバスターの新たな挑戦の成否は、まもなく明らかになるであろう。だが、このシナリオが実現する可能性は高そうだ。
グレゴリー・J・ミルマンは、ニュージャージーに拠点をおくビジネスライターである。
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