第6回 タレントマネジメントによる財務・経理人材の育成
経営コンサルティング本部
財務・経営管理グループ
パートナー
福田 政浩 |
経営コンサルティング本部
プリンシパル
松本 利明 |
はじめに~経理・財務の人材が足りない
急速な環境変化に対応していくためには、企業も従来考えられてきた枠組みを超えダイナミックに進化していかなければならない。経理・財務部門にもその波が押し寄せてきていることについては、前回までの連載で整理した。
最終回となる今回は、その進化を具現化する源泉となる経理・財務部門の人材をどのように育成するかについて解説する。なお、文中の意見記述については、筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。
人材育成の課題~平均力向上の限界
日本企業では平均力を上げていく年功・職能的な人材育成を行うことが多かった。終身雇用、年功を前提に、本社主導で研修や異動配置を決め、階層別研修で平均力向上を狙い、部門では、現場仕事のOJTと部門主体の現場仕事に直結した専門知識・技能の深堀を進めてきた。
この育成方法は「改善などを通し、比較的決められたことをやりきる」能力を高めることはできるが、「育成に長い時間がかかること」が問題で、「変化に対応する能力を身につけること」には向いていない。また、「従順であるがキャリア向上は会社任せで受け身」な人材を量産してしまう。これでは、質と量の両面からの人材供給が間に合わない。
ゆえに、人材育成の発想転換が必要となる。各々の社員が持ち合わせる各々の能力を最大限発揮しながらスピード感をもって成長できる環境を整備しなくてはならない。
人材育成の今日的発想~タレントマネジメントとは
そのための考えが「タレントマネジメント」である。人材の「タレント:素質・強み」に着目し、それをどのように組織の中で伸ばしてくかを「仕組み化」していくのである。
つまり、「適材適所」の実現と個々のタレントを伸ばすことを仕組み化することを通して育成のスピードアップと人材の生産性の最大化を目指すという発想から人材育成のあり方を組み直すのだ。
この方法は、会社主導ではなく、社員の主体性を引き出し、モチベーションを向上させ、会社と社員がWin - Winの関係でビジネス目標達成と人材育成を実現させてくことを可能とするものであり、人材育成の手段として注目されている(図表1)。

(1)育成のゴール設定~人材要件と育成の道筋を示す
経理・財務部門は、今や日常のオペレーション業務を行う部門から、企業の舵取りのための知恵と情報を生み出す部門へとミッションを進化させていくことが求められている。
ミッションが変われば当然求められるケイパビリティ(スキル・タレントの総和)も変化する。よって、経理・財務部門のミッション変更に伴い、どんなスキル、タレントをもった人材が必要になるかを明らかにし、そのスキル、タレントを強化する施策を整理することから着手すべきである。
今回は、アクセンチュアのモデルを使って今日的な経理・財務部門のケイパビリティを整理する。その区分は大きく「ビジネスエクセレンス」、「ビジネスインサイト」および「ピープルリーダシップ」に分けられる。
「ビジネスエクセレンス」とは、経理・財務部門の本来的なケイパビリティであり、グローバルの企業戦略に影響する財務戦略の立案と分析、会計、税務、資金管理、リスク管理、監査、IR活動に必要な内容となる。
「ビジネスインサイト」とは、グローバル全社に影響するビジネス上の大きな意思決定に関して、中長期の財務的な観点に立ちつつ問題解決への助言を行うケイパビリティであり、最近、経理・財務部門に強く求められる傾向がある。たとえば、大掛かりな経営資源の配分の変更、M&Aで買収される側の価値判定をするなどといったCEO(最高経営責任者)の意思決定支援がこれにあたる。
「ピープルリーダシップ」とは、グローバル財務組織のガバナンス体制の構築とあわせ、経理・財務部門の人材の能力を最大限に発揮させ、かつ優秀な人材を集めてくるといった部門内のタレントマネジメントを確立し、またこれを指揮するケイパビリティをさす。
このケイパビリティを人事制度のグレードや各ポジションの役割にそって体系化する。体系化する際は、CFO(最高財務責任者)を育成ゴールとして頂点に置き、新入社員からCFOまで、どんな道筋でスキルやタレントを強化すればいいか、そのキャリアパスを整理するとわかりやすい。
(2)育成のメカニズム作り~経験を通した育成を加速させる
次に、整理したキャリアパスに対応したスキル、タレントを育成する施策を洗い出し、紐付ける。経理・財務部門には新たなケイパビリティが必要となるため、今までの育成施策をゼロから見直し、再構築することになるだろう。
育成施策は、キャリアパスと「仕事を通した経験(アサイン・異動配置・OJT)系」の関係を軸として再構築する。何よりも実際の仕事の経験が一番の学びであるからだ。
「専門知識(職場研修・通信教育)系」、「スキル習得の支援(研修)系」は、あくまでも仕事の経験を側面から促進する位置づけで内容を精査する。専門知識系は、仕事にアサインされる前に本人が短期で身につけられるようにラーニングポータルやeラーニングの活用を視野に入れる。
研修は、実際の仕事で必要となるスキルの概念と実習を通した疑似体験による学習が中心となるが、実際の職場のケースを活用したり、実務と同じテーマを取り上げて研修を通して仕上げたりするなど、より実務と関連づけることにより学習効果が促進され、従来型研修の「思い出しか残らない」現象を回避することができる。
(3)育成の施策と優先度の整理~タレントの見える化を通した施策の最適化
キャリアパスと育成施策の整理後、経理・財務部門のメンバーのケイパビリティのアセスメントを行い、ケイパビリティのあるべき姿と現状とのギャップを整理し、どのケイパビリティから強化していくか、その優先度と計画を人材戦略としてとりまとめる。
ケイパビリティ向上を加速させるには、成長を体感してもらうことが一番であり、それには、実際に当初設定したことができるようになるなど、仕事の結果を向上させることが何よりもの処方箋となる。ゆえに、ケイパビリティ向上も「選択と集中」を行い、結果を出しながら成長シナリオを加速させていく人材戦略の策定が肝となる。
(4)育成の展開~エンゲージメントの向上を通して人材投資価値の最大化を図る
この取組みにおいては、人材育成のスピードを加速するため、ちょっとしたミスが重大事故につながりかねない。ゆえに、人材戦略に沿って育成が進んでいるか、施策は有効かといったポイントを整理してモニタリングを行い、適宜軌道修正を行いながら最終ゴールを目指すこととなる。
その中でも本人のケイパビリティ向上に向けたコミットメントを引き出すことが要諦となるため、「エンゲージメント」に着目して打ち手を考えるとよい。
エンゲージメントとは「単なる会社への忠誠心ではなく、個人と組織の双方に、より高い成果をもたらそうとする熱意や意識」を指標化したもので、個別・組織単位それぞれの打ち手を考える材料となる(図表2)。

なぜエンゲージメントかというと、個人により仕事の指向性(仕事に対する欲求・関心・好み)は異なるため、関心領域や求める要求水準、組織とのつながり方も異なり、この関係がきちんとつながっていないと、十分なコミットを引き出すことが難しくなる。
よって単純にマネジメントの情報共有度、参画の場や学習の場、挑戦機会の提供度合いの平均認識より施策の有効性をモニタリングするだけでは個々の仕事の指向性と育成施策が上手くかみ合っているかまでは把握できない。
そこで一人ひとりの多様性に対応できるように、それぞれのエンゲージメントの状態を把握し、どのように高めていきたいのかを検討し、個別に手を打っていくことが重要になる。
具体的には個人のケイパビリティ向上を仕事の指向性とあわせて考えることにより、研修で効果があがる方、経験重視で効果があがる方、上司の細かい指導が有効な方、ある程度自主性に任せた方がいい方等といった個別に最も効果があがるオーダーメード型の育成が明確となり、ここまで踏み込んで個別の育成対策を整理する必要がある。
そして、育成の仕組み面、個別の育成計画を個人の仕事の指向性をとらえた上で、上司や先輩が日々どのようにかかわることが最善なのかを確認しあいながら、マネジメントやOJTで関わることによってはじめて育成が加速されることになる。
ゆえに人材戦略にそって育成施策が機能しているか、育成運営が個別の成長につながっているか、その関係性を「エンゲージメントを向上させる6要素(Career:キャリア開発機会、Community:仲間・上司・組織、Congruence:会社としての一貫性、Compensation:報酬、Content:仕事の与え方、Coping:仕事と生活のバランス)」から紐解くことにより育成の進捗と課題が浮き彫りになる。
最後に~タレントマネジメントを成功に向けて
タレントマネジメントの運用で最も壁となるのは「異動・配置」である。なぜなら、現時点で経理・財務の担当者が社内唯一の担当者となっていて後任がいないケースが多いからだ。さらに、経理・財務部門は自身の「専門性の向上」に興味を置く方が多いので蛸壺化しやすい。
この点については、普段からジョブアサインを調整して仕事の「のりしろ」部分を増やしたり、後任を育てるのを義務化したりするなどの工夫が求められる。また、経験を積むために思い切って部門を越えたアサインを希望する勇気を持たせることも重要であろう。
以上の取組みを進めることにより、グローバルCFO調査で浮き彫りとなった日本企業の「財務・経理の人材に関して重要な取組み」の課題であった「社員のアイデアを引き出す機会提供」、「社員の能力向上を支援する仕組み(トレーニング、コーチング)」を解決することができると筆者は考える。
総括~連載を振り返って~
「グローバルCFO調査にみるこれからの財務・経理部門の役割」と題して今回を含め計6回の連載をしてきた。これまで述べてきたように、企業を取り巻くビジネス環境は過去比類のないスピードで変化し、複雑化する傾向をみせている。このような複雑さを増すグローバル環境下において、財務・経理部門には、経営に対してこれまで以上に多くの付加価値をもたらす役割が求められている。言い換えれば、今後の財務・経理部門は、バックオフィス的役割を脱し、全社経営戦略と一貫性を持つ財務経理戦略を推進することが期待されているのである。
そのためにも、全社戦略に照らして自社財務・経理部門の現状課題(As-Is)を分析・把握した上で、あるべき姿・目標(To-Be)を明確に定義し、どのような道筋であるべき姿に到達するのか(ロードマップ)、どの改革施策に取り組むのかといった、財務・経理部門における戦略を明確にすることが重要であると考える(図表3)。

激動の時代、羅針盤なくしての航海はありえない。変化が激しく、かつ複雑さを増す時代だからこそ、自社部門の立ち位置を見定めた上で、これからのあるべき姿を検討されてはいかがであろうか。
過去6回の連載が読者諸氏の検討・取組み推進の一助になれば幸いである。
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松本 利明(まつもと・としあき)
アクセンチュア(株)
経営コンサルティング本部 プリンシパル
東京電機大学工学部卒。日系大手経営コンサルティングファーム、外資系大手コンサルティングファームを経てアクセンチュア(株)に入社、現在に至る。新卒以来15年間一貫しての組織・人事コンサルティングに従事。M&A・組織再編に伴う人事統合(HRDDからPMI)、グループ/グローバルタレントマネジメント戦略の策定と仕組みの構築、運用定着化までのコンサルティングに従事。
『M&Aを成功させる組織・人事マネジメント』(日本経済新聞社2007年)共著。『組織バリュー・マネジメント入門』(生産性出版2002年)共著、執筆、講演多数。
マネジメント・クリエイティブス研究会 理事
日本人材マネジメント協会(JSHRM)講師
福田 政浩(ふくだ・まさひろ)
アクセンチュア(株)
経営コンサルティング本部 パートナー
慶應義塾大学商学部卒。
企業統合、連結経営管理、経理人材組織変革、業務改革、システム導入、内部統制含むガバナンス改革等の主として財務・経理領域のコンサルティングに従事。
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中央経済社 旬刊経理情報 No.1200 12月1日号掲載
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