  戦略グループ エグゼクティブ・パートナー 堀田 徹哉 マネジャー 長部 亨 コンサルタント 戸川 晋一
はじめに 「デジタルホーム」が各界から注目されるようになって来た。デジタルホームでは、家電機器やPCがお互いに連動し、様々なサービスを家庭にいながらにして楽しむことが出来るようになる。(図1)また、外出先から自宅の家電機器にアクセスして、予約や動作コントロールを行ったり、留守宅の状況をモニターしたり出来るようになる。現在このような環境を実現している家庭はごく少数であるが、家電機器のネット対応化や家庭内ネットワークの高度化は着実に進んでおり、関連する様々な技術の進展とあいまってデジタルホームが現実味を帯びてきている。
図 1 デジタルホームのサービスドメイン
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デジタルホームにおいて機器構成上の核として期待されるのがホームゲートウェイであるが、ここではまず、デジタルの進化とホームゲートウェイのあり方について考えて行きたい。 ホームゲートウェイとは ホームゲートウェイとは、家庭内のネットワーク(ホームネットワーク)と、外部のネットワーク(通常はインターネット)との境界に位置する装置であり、以下の4つの機能を提供する機器と定義される。 (図 2)。
第一はネットワーキング機能、すなわちインターネットとホームネットワークの物理的な接続やプロトコル変換による異なるネットワークの接続を実現する機能である。この機能により各機器同士、または機器と外部のサービスプロバイダー間の通信が可能となる。 第二は、セキュリティ機能であり、システム攻撃からの防御、不正アクセスの防止や情報漏洩の阻止などにより、ホームネットワークの安全な運用を可能とする。また様々なデジタルコンテンツの権利処理やコピープロテクションの一部も担うこととなる。 第三はデバイスマネジメント機能であり、ホームネットワークに接続される機器の自動的検知や状態監視を実現し、各機器の機能や技術的な要求事項を把握した上で、自動設定を行い機器の動作を保障するとともに、運用を容易にする機能である。 最後の機能はサービスコーディネーション機能であり、ホームネットワーク上の様々な機器やアプリケーションを連携させ、統合的なサービスを提供する機能である。例えばこの機能により、ストリーミングでビデオを鑑賞中に電話が鳴った場合、自動的にライトが点灯しビデオにポーズをかけた上で、画面上に「XXXさんから電話です」というような表示を行うことが可能となる。
図 2 ホームゲートウェイの有する機能
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ホームゲートウェイを巡る標準化動向 今のところ上記の全ての機能を実装したホームゲートウェイ機器はまだ登場していないが、関連業界には様々な標準化の動きが見られる。例えばHGI (Home Gateway Initiative)という、フランステレコムやドイツテレコムなどの欧州の通信事業者が中心となっている標準化団体は、新しい技術ではなく既存の技術標準を有効に組み合わせてホームゲートウェイの仕様化のための要求条件を作成しており、2005年10月に最初の仕様をリリースしている。また、家電業界が主導しているDLNA (Digital Living Network Alliance)では、IP技術を基本とし、業界横断的なデジタル化を推し進めるためのオープンな相互接続基準の策定を進めており、2006年3月にはソニーも家電に対する全面的な採用を表明している。その他にも白物家電のネットワーク化のための標準であるECHONETがDLNA仕様との相互接続規格の開発着手を発表したり、ネットワークサービスのためのJAVAベースのコンピュータ環境の標準化を進めるOSGi (Open Services Gateway Initiative)がリリースした第4版の仕様に対し、2006年6月に最初の準拠製品を発表したりと、様々な標準化関連の動きが見られる。
図 3 各標準化における取組領域
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これらの標準化団体の動きの全体像を業界ごと、機能ごとに俯瞰したものが図 3である。こうしてみると、通信業界が中心になっている標準化団体では、相対的にデバイスマネジメントやサービスコーディネーションなど、機器側の機能に対しての取組が多い一方、コンピュータ・家電業界中心の標準化団体では、ネットワーク側に対する取組が多い。通信事業者はデジタルホームのプラットフォームを押さえようとしている一方で、コンピュータ・家電事業者は直近の商品開発に直接影響を与える領域に注力しようとしており、各事業者のビジネス戦略が垣間見えて興味深い。 ホームゲートウェイの進化と問題点 さてここからは、こうした機器側の進展や標準化の動きを踏まえて、今後デジタルホームがどのように進展していくかについて考えてみたい。アクセンチュアでは、今後のデジタルホームは次の3つのステージを経て進化を遂げると考えている(図 4)。
第一段階は「断片的」ネットワークである。PCを中心として一部の機器がネットワーク化されるが、全ての機器がつながっているわけではない。またTVとDVRなど独自に閉じたネットワークを形成し、複数のネットワークが家庭内に混在している。ホームゲートウェイには、PC中心のネットワークに対して、モデムやルータとしての基本的なネットワーキング機能とセキュリティ機能が求められる。この段階はデジタルホームの黎明期と位置づけられ、現在一部のアーリーアダプター層でこのような環境が実現されている。 第二段階は「ハブアンドスポーク」ネットワークである。家庭内の機器はホームゲートウェイを中心に概ねネットワーク化され、ホームゲートウェイにより通信が制御される。また、ネットワークへの接続機器が増大していくことにより、デバイスマネジメント機能の重要性が増すこととなる。 第三段階では、デジタルホームは「メッシュ」ネットワークとなる。様々な家庭内の機器とそれによりサービス群がコーディネートされ、統合的な新しいサービスが実現可能となる。この段階ではサービスコーディネーション機能の巧拙が付加価値創出の鍵となる。
図 4 デジタルホームの進化形態
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先に触れた標準化団体の多くはこの第三段階を目指して取り組みを進めており、この段階でどのような機能が求められていくのかを中心に議論がなされている。一方で、我々はまだ第一段階にいて、いかにして次の段階に進化させていくのかを模索しているというのが現実である。一つの例を挙げて考えてみよう。
パナソニックはビエラリンクとよばれるシステムを開発した。ビエラリンクに対応した同社のテレビやDVDプレーヤー、AVアンプ等はHDMI規格により相互に接続されることで対応機器群全体の制御が可能となっている。例えばDVDを視聴しようと思った場合、これまではテレビとDVDプレーヤーの電源投入、テレビの入力のDVDへの切り替え、DVDのプレーヤーへの投入、再生等を行う必要があったが、ビエラリンクで接続されている場合はDVDプレーヤーの電源を投入し、DVDを入れるだけで自動的にテレビの電源投入、入力の切り替えが行われすぐに再生できるようになる。
しかし、これらの商品を購入した家庭でデジタルホーム化が進展したときにどのような問題が起こりうるだろう。数年後にはさらに高機能の家庭内機器が開発され、その機能は将来的なデジタルホームの実現に向けてさらに優れたものになるだろう。しかし今日購入されたものとの接続が可能かどうかは全く不明であり、そのままでは接続は出来ても、今実現されている機能が全て将来の環境下でも実現できる可能性は決して高くない。これは典型的な下位互換性の問題であり、これまでも多くの技術において発生しているものであるが、理想的なデジタルホームのおいては、相互に接続し連携をとる必要のある機器が非常に多くなることが想定されるため、これまで以上にこの問題は深刻なものとなろう。 (図 5)。
図 5 今後の進化において想定される課題例
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2006年の4月にアクセンチュアが行ったデジタルホームに関するサーベイ結果でも、こうした問題に対する懸念が浮き彫りとなっている。 (図 6)。家庭で利用しているコンピュータ製品や電化製品の全般的な満足度に関する設問において、満足していない回答者にその理由を聞いたところ、1位の「コストに見合うほど使用しない」に次いで、「持っている他の製品やサービスと適合しない」が2位となっている。ユーザーは所有する機器を統合的に利用できないことに対して大きな不満を持っており、この問題はデジタルホームの発展にも大きな影響及ぼすものと考えられる。
図 6 コンピュータ製品や電化製品への不満
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今後の発展に向けた提言 デジタルホームが現実味を持って語られ始める一方で、足元のマーケットでは現在の技術的制約、ネットワーク上の制約を前提とした機器が大量に販売され家庭に浸透していく。いくら家電のライフサイクルが短くなったとはいえ、一度購入した機器はそう簡単には買い換えられない。将来、高機能化した機器が登場しても、それが既存の機器と統合されないのであれば、実質的にデジタルホーム化を進めることは難しい。多くの標準化の試みが最終的なデジタルホームに求められる機能を前提として進められているなか、現状からどのように最終形に移行していくのか、その道筋は見えて来ない。デジタルホームの発展ステップをどのようにマイグレートしていくか。デジタルホームの実現にとって、実はこの問いに答を見出すことが最も重要であり、同時に最も難しいのだ。
それではどうすればよいのであろうか。この問いに答えるには、企業向けITシステムの歴史が参考になると思われる(図 7)。
図 7 企業向けITシステムにおける進化
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企業向け情報システムの進化もデジタルホームと同様に、三段階の変遷で捉えることが出来る。しかし企業向け情報システムの異なる点は、既に第三段階に入りつつある事だ。 1980年代頃における第一段階では、企業の情報システムは非常に断片的であった。この時代は多くの企業でシステム整備が行われはじめた頃であるが、人事、財務、在庫管理といった各システムがそれぞれ独立して構築され、相互に接続されることは無かった。ユーザーインターフェースもまちまちで、ユーザーの方がシステムに合わせて対応する必要があった。10年程前からから企業向け情報システムは第二段階に入り、各システムやユーザーインターフェースは統合され始めるようになった。現在はユーザーの個人用PCの画面から様々な社内システムにアクセスできる。しかし本格的にシステム間が統合されているかと言えば、まだまだ道半ばである。人事、会計、SCMなどがERPのパッケージで統合された例は多いが、多くは既存のシステムと新しいシステムが混在し、相互には接続されていない状況にある。 こうしたシステムの本格的統合へのニーズは益々高まってきており、SOAなどの考え方や、新たな情報通信技術の進展により、現在企業向けの情報システムは新しい時代に入ろうとしている。そして今後この統合化の動きは益々加速していくと考えられる。 企業向け情報システムにおけるこのような発展を支えたのは、当然のことながらハードウェアやソフトウェア技術の革新、標準化の進展等の努力によるところが大きい。しかし、それだけで企業向けのIT統合が進んだわけではない。日進月歩で進化する技術を理解し、顧客企業のニーズに合わせてソリューションを提供してきたインテグレーター(SIerなど)の存在無しに、企業情報システムのここまでの発展はありえなかったと言っても過言ではない。このインテグレーションサービスの重要性を認識し、通信事業者、ハードウェアベンダー、ソフトウェアベンダーや卸売事業者等の様々なプレーヤーがソリューション事業を強化してきたことは記憶に新しい。その結果、業界横断的なバリューチェーン全体が形成され、企業向けのソリューションサービス産業が発展したのである。
デジタルホームの世界を企業情報システムと同じだというと暴論になる。規模も違えば、ニーズも異なる。しかし、家庭において様々な機器がネットワークに接続され、それらが連動、連携して動作するという、デジタルホームを考えるとき企業情報システムとの類似点は多い。様々な標準化、規格化の取り組みは、OSの標準化やアプリケーションのパッケージ化、標準化の動きと酷似している。しかし、ここで欠けているのがインテグレーターである。
企業向け情報システムの進展に伴って、ソフトウェア、ハードウェア、LAN、WANなどの通信ネットワークまで多様なレイヤーをまたいで、商品開発、業務コンサルティング、システム設計、開発、保守運用といった一連のバリューチェーンが形成された。アクセンチュアはコンシューマーの世界においても、デジタルホームの実現には、それを確実に提供する新しいバリューチェーンの形成が不可欠と考える。(図 8)
図 8 デジタルホーム実現におけるバリューチェーン
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たとえば、高機能なホームサーバーを購入し、TV、PC、ステレオの他、セキュリティ用の監視カメラやエアコンなどの白物家電のコントロールを実現しようとしたとしよう。まず、物理的に家の中にどのように機器を設置し、有線・無線を組み合わせて機器間をどのようなネットワークで結べば良いかを設計する必要が生ずる。しかし、一軒一軒異なる家に合わせて設計するには、実際にその家を訪問して実施調査しなければ机上では無理だ。法人の世界で言えばNIerに相当するサービスが必要になるのである。また、リテラシーにばらつきのある消費者に対して、家庭の状況やニーズに合わせて最適な機器やネットワーク、加入するサービスを選択してもらうために、適切なアドバイスを提供する「コンサルティング」サービスも必要となろう。 さらに、購入した商品を家庭に届けて設置する段階においても、まずホームネットワークを敷設し帯域やスループットを確認した上で、実際に複数の機器をネットワークに接続して所定の機能が得られるか動作保証を行う必要がある。その際、商品、サービスの設置設定が完了した後も、ユーザーが快適に利用できるようそれなりのトレーニングが必要となる一方、万一何かトラブルが発生した場合には、その原因を切り分け、適切な対応を施す必要がある。 このようなバリューチェーンが形成され、一連のサービスが提供されるようになって初めて、デジタルホームが万人に受け入れられる準備が整うことになる。商品の高機能化だけが先行しても、それを活用できるのはほんの一握りのアーリーアダプターたちだけであろう。 デジタルホームのバリューチェーンを実際に形成するためには、様々プレーヤーが新しいケイパビリティーを獲得していくことが求められるが、実は、こうした流れを先取りする動きは既に始まりつつある。
ソニーは「デジホームサポート」というサービスの中で、パソコンやネットワークの設定からAV機器の設定、ソフトウェアのアップグレードやトレーニングの提供といったサービスを自宅出張で提供している。対象はソニー製品に限定されているが、このサービスでは、例えばソニーの発売しているパソコンであるバイオと大画面テレビの接続といった依頼も可能である。 家電量販店では、ビックカメラが「らくらくデジタルサポート100」というサービスを開始している。内容はソニーのデジホームサポートのようにパソコンやデジタル家電の各種設定、ネットワーク接続やトレーニングの提供などであるが、メーカーを限らず様々な製品をサポートしている。 また、サポート専業ビジネスを行っているキューアンドエー株式会社の提供する「クラブQ&A」サービスは、各種設定等やトラブル対応などの通常のサポートに加え、商品選びの相談や購入代行も行っている。このサービスを利用すると、パソコンの買い替えや無線LAN、セキュリティソフト購入時など、何を選ぶべきかよくわからない時にもアドバイスをもらうことができ、さらには代行購入を依頼することもできる。 各プレーヤーのこうした動きはデジタルホームバリューチェーンの中核を担うコンサルティングサービスの萌芽と見ることができ、今後の更なる発展が注目される。
デジタルホームの実現は、コンシューマーの世界における一つの夢である。そしてこの夢は決して家電メーカーや通信キャリアだけの夢ではない。住宅メーカー、電気・ガス会社、さらには現在法人向けのソリューションを提供しているIT企業を含め、様々なプレーヤーにとってデジタルホームの新しいマーケットを開拓できるチャンスがある。家電機器の高機能化やネットワークの高度化、技術標準の確立に向けた取り組みだけでは夢は実現しない。各プレーヤーには「デジタルホームをいかに提供するか」にも目を向け、新たなバリューチェーンの形成を視野に入れた取り組みが求められている。 トップへ
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